西武多摩湖線・八坂駅より徒歩10分。住宅や団地が建ち並ぶ静かな街並みを歩いていると見えてくる鮮やかな黄色の電車。子ども達に人気の「電車図書館」は、「URグリーンタウン美住一番街」の敷地内にあります。
今から50数年前、久米川公団住宅の住民たちは「子ども達のために施設を」と熱望していました。そこで当時の自治会により“子どもの施設をつくる会”が発足し、西武鉄道の古電車販売の利用に着目。まだ東村山市に図書館がなかったこともあり、子ども達が自由に本を読んで過ごせる「くめがわ電車図書館」の運営が始まりました。
初代は、ベージュと赤の車両で通称「赤電」と呼ばれるものでしたが、1991年の団地建替えにあたり姿を消すことになりました。2代目となる現在の黄色い車両は2001年より使用されています。
今回お話を聞いた小椋裕子さんは、「くめがわ電車図書館」の代表となって約8年。
2001年に設置された車両は、長い年月とともに劣化が進み、ボディにはパリパリと塗装がはがれ始める個所が現れました。
「皆さんに気持ちよく使ってもらえるようになんとかしないと……」との思いは募ります。しかし、市から運営費として補助金を得ているものの、車体の全塗装となると膨大な費用がかかるのです。
そこで出会ったのが『塗魂ペインターズ』。「塗装でできる社会的ボランティア」をコンセプトに塗装関係の会社の経営者たちが運営するボランティア団体です。
小椋さんが思い切って相談してみたところ、車両の修復塗装を無償で快く引き受けてくれました。2019年に最初の全塗装が行われ、2021年7月に2度目の塗装が施され、綺麗な車両を維持できています。
子どもから大人まで誰でも利用でき、会員登録をすれば本を借りることができます。
館内の蔵書は児童書を中心に約5,000冊。市の補助金を利用して、毎年150冊ほど入れ替えを行っています。
現在はコロナ対策の為にお休みしていますが、毎週土曜日にはボランティアスタッフによる紙芝居や読み聞かせが行われていました。再開が待ち遠しいですね。
本は、対象年齢別・ジャンル別などに別れて並べられており、受付でもらえるパンフレットに配置図が描かれています。お探しの本が見付からないという人は、カウンターで尋ねてみると丁寧に教えてくれますよ。
本を読むだけでなく、運転士気分を味わうことができることも大きな魅力のひとつ。
運転席に座って計器類にも触れることができるこの場所は、電車が大好きな子ども達で順番待ちの列ができるほど人気です。
またこの電車図書館は、絵本にもなっています。著者の深山さくらさんは、長期間に渡り何度もここを訪れ、熱心に取材を重ねていたそうです。この本は、電車図書館の歴史を子どもたちにもわかりやすいように、優しい文章にして伝えてくれています。もちろんここでも読むことができますので、ぜひ一度手に取ってみてください。
さらに2021年3月に公開された映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のシーンで登場する“本のある電車”のモデルになったことにより、「くめがわ電車図書館」は聖地巡礼の地となりました。
「たくさんの大人たちが訪れて何か影響はありましたか?」と質問をすると、「エヴァのファンの方たちはみなさん礼儀正しくて、“撮影してもいいですか?”と声を掛けてくれる人ばかりでした。思い思いに写真を撮って帰られましたよ」と、小椋さんは笑顔で話してくれました。
普段から利用している子ども達にも配慮ある行動をとってくれたそうで、「この電車図書館を想う気持ちは大人も子どももみんな同じなんだ」と感じたそうです。
多くの人の思いや厚意、訪れる人々の気持ちいいマナーなど、たくさんの心温まるエピソードであふれるこの場所は、桜の咲くころが一番おすすめとのこと。これからの季節も楽しみです。
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くめがわ電車図書館
住所/東京都東村山市美住町1-4-1
電話番号/東村山市立中央図書館 042-394-2900
Twitter/https://twitter.com/0228yuko
営業時間/水・土曜日 14:00~16:30
定休日/日・月・火・木・金・祝祭日
2021/12/10