【府中市】2000年の時の流れを秘めた古代ハス「大賀ハス」が見頃

【府中市】2000年の時の流れを秘めた古代ハス「大賀ハス」が見頃
府中の森公園内のハス池
8月上旬まで見頃が続く郷土の森修景池と寿中央公園ひょうたん池

「府中はハスのメッカなり」

植物学者でハスの権威であった大賀一郎博士自らがこう呼んだ府中市は、2000年以上前から土の中で眠っていた古代ハスの種子を、博士自らが発芽させ、それが開花し、以来、6月から8月にかけて市内の2か所で、その優雅な姿が楽しめます。

 

大賀博士は、岡山県生まれで幼少の頃から近くの神社の池で咲くハスに心惹かれていました。内村鑑三と出会いキリスト教に入信しますが、「神のみが創れるハスという植物を研究したらどうか」という内村の言葉をきっかけに東京帝国大学理科大学植物学科に。その後大学院に進み、「遺伝子」という言葉を作った細胞遺伝学の祖・藤井健次郎に師事し、本格的にハスの研究を始めます。

 

1917年に南満州鉄道研究所の植物班主任として大連に赴き、古ハスの実の研究に従事します。1927年には博士号を取得し、1932年に日本に帰国し、現在の府中市に居を構えました。

小さい方の大賀蓮池の方にある大賀博士の銅像

そして、1951年、千葉県検見川市の縄文時代の遺跡の発掘物の中にハスの花托(花の中央部分)を見つけ、調査を続けた結果、地下6mの泥炭層から計3粒のハスの実を発見しました(最初の1粒目は地元の女子中学生が発見者)。

その種子は、2000年以上前の種子であるとされ、それを植えたのが府中市にある博士のご自宅でした。同年5月に発芽し、翌年、見事に開花したこのハスは、「世界最古の花」として世界中で話題になりました。

花の真ん中の逆の筒型の部分が花托

現在では、府中市郷土の森公園の中の修景池で大賀ハスがたくさん見られます。その他にも、大賀ハスと王子ハスの交配種である優雅な「舞妃蓮(マイヒレン)」や、ひとつの蕾の中からいくつかの花が並んで現れる多頭蓮(たとうれん)の「妙蓮(ミョウレン)」(花びらが1,000枚~3,000枚もあると言われる)など、見ごたえのある30種類近くのハスが花を咲かせます。寿中央公園ひょうたん池には、大賀ハスとマイヒレンが見られます。


早朝の大賀ハス。悠久の時をかんじさせる佇まい

この大賀ハスの記事をかくために修景池に行った時に、本格的にカメラを据えて、時間によって移り変わるハスの姿をとらえようとしている写真家の方にお会いしました。聞けば、生前の大賀博士とお知り合いだったそうで、写真の現像をお願いしていたお店が同じだったことがきっかけだったそうです。もう40年間、毎年大賀ハスを撮影されているそうです。

マイヒレン(舞妃蓮)。天女の羽衣を思わせる優美な姿

ハスを鑑賞するのに一番いい時間は、朝7時半から8時頃。見頃は、6月から8月上旬まで続きます。つぼみが大きく膨らむと開花が始まり、常に花弁は開閉を繰り返しながら、2日目には最も美しい形となり、3日目には横からでも花の中央部が見え隠れするくらいに花弁が広がり、4日目には花弁が脱落していきます。開花した花も8時あたりには徐々に閉じていく姿を見ることが出来ます。

 

ちょうどその時間くらいに行っていたので、公園で出会ったその写真家の方が教えてくださったのは、「よく見たら、閉じる時に花弁の色が薄く、白っぽくなっていくんだよ」と。確かに、10分くらい前に見た時には、もっと鮮やかな濃い目のピンクだった気がする、と思っていると、数10分前とその時に撮った写真を見せて下さいました。確かに、色が薄くなっているんです。

 

2000年前の種子から発芽して今も花を咲かせる古代ハスです。ちょっと立ち寄って花を見て、写真を撮るのもいいですが、もし時間があるのならば、10分、15分、30分と花の姿が変わっていく様子をゆっくりと観察するのもおすすめです。なんといっても古代ハスですから。

 

それと、膨らんだつぼみを見ていると開花時にポンっと音がしそうな気がしますが(キキョウの花をつぶしてみたことありませんか?)、その音を録音しようと上野の不忍池で試みたのが、大賀博士と牧野富太郎だったそうです。結果、音はしなかったそうですが。


徐々に開いてくる花。30分待ってみました

最後に、ハス(ハス科ハス属)とスイレン(スイレン科スイレン属)についても少し。ふたつは、なんとなく古代とか悠久の時とかそういった感覚を呼び起こす植物ではないでしょうか。

 

分かりやすい違いは、水に浮くように咲くのがスイレンで、水面から距離があるのがハスですが、植物は、古くから薬、食料、香料、染料などとして人間の暮らしと深い結びつきがあり、たとえば、古代エジプトではスイレンが神々を祀るために象徴性を持ち、インドや中国ではハスがその役目を担っています。

 

仏教では、ハスは「蓮華」」と呼ばれ、釈迦が母の胎内にいる時と出た時にハスの花が咲き、その中に立って第一声をあげたとされています。エジプトにはハスが自生しないのでスイレンが、東洋ではハスが、神聖性の象徴となり、水と結びつく生命に溢れた植物として歴史を通して人々の心に印象を残しています。

 

次々につぼみをつけて約3カ月ほど私たちを楽しませてくれるハス。古代から生き延びた生命力と、神秘的なその姿を、時間をかけてゆっくりと眺めたり、咲く時期が違う品種がありますから、何度か通ってその都度にしか見られない花を見に出かけてみてはいかがでしょうか?

大賀ハスの開花時期は比較的早いので、早めにおでかけください

 

●●●DATA

大賀ハスが見られる公園

<府中市郷土の森公園修景池>

所在地/東京都府中市矢崎町5-5

営業時間・常時開園/24時間営業

アクセス/京王線「府中駅」、京王線・南武線「分倍河原駅」から郷土の森総合体育館行きバス終点

<寿中央公園ひょうたん池>

所在地/東京都府中市寿町2-9-9

営業時間・常時開園/24時間営業

アクセス/京王線「府中駅」北口より徒歩約7分

 

2023/06/20

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