府中市の南端を流れる多摩川には計7か所に渡しがあり物資の運搬などに利用されていました。その一つ押立の渡しは府中市押立町と稲城市押立を結んでいました。
その歴史は古く、府中市が設置した記念碑には、土橋がかかっていたが多摩川の水量の多い時期には舟を用いていたとも記されています。
多摩川の流路が変わる度に場所を変えながら続いてきた渡し舟ですが、昭和10年代になり、上流下流に二つの橋が架かったことで利用数が減り廃止されました。
府中市押立地区のどんど焼きで使われる竹は対岸の稲城市から切り出されているそうです。渡しが消えても押立という地名でつながった両市のご縁はしっかり続いています。
正月15日の行事である小正月。この日は小豆粥を食べたり豊作を祈って鳥追いをしたり、正月に忙しかった女性をねぎらい、女正月とも呼ばれたりします。そして積み上げた稲わらを燃やすどんど焼きも各地でよくみられる行事です。
府中市には押立地区と四谷地区の2か所にどんど焼きが伝わっています。中でも押立地区のどんど焼きは都内最大規模と言われるもので、いつごろ始まったかは不明で、一時途絶えていた時期もありますが現在に引き継がれているようです。
設営の日の早朝、地元の人びとが集まり作業開始。長さ10メートル以上もある竹を立て、呼吸を合わせて広げると直径7メートルの大きな円錐形ができます。
細く割った竹で下から上へと固定しながら上り、お昼頃に骨組みが完成。午後からわらを乗せると、やぐらが完成します。翌日のどんど焼きのつどいではやぐらの内部を見学することもできます。
そしてどんど焼き当日、朝8時に点火すると、まずもくもくと白い煙が湧き出るように現れます。続いて天を突くように炎が燃え上がり、みるみるうちに焼け落ちていきます。
回りを取り囲んだ人たちは炎の勢いに圧倒されながらも、それぞれが「今年も元気で」と願い込め、この古くからの行事を見守ります。
多摩地域の各地でもどんと焼きが行われていますが、このどんと焼きもこの地域に伝わる伝統の風物詩になっています。
写真提供:茂垣貴子
●DATA
[データ]
開催時期/1月
住所/東京都府中市押立町5丁目
ホームページ/
https://www.city.fuchu.tokyo.jp/gyosei/fuchusinogaiyo/jiko/fuchu_winter.html
アクセス/京王線府中駅よりちゅうバス(府中市コミュニティーバス)にて押立5丁目下車