奈良時代末期に編纂された日本最古の和歌集「万葉集」には天皇、貴族から防人、農民など様々な身分の人々が詠んだ歌、約4500首が収められています。万葉の時代は人々が自然とともに生きていた時代。万葉歌人は草木に託して愛しさや悲しさなど、その心を和歌に詠みました。そうした草木を集めたのが「万葉植物園」です。
奈良の春日大社の万葉植物園が全国的に有名ですが、私たちの住む多摩地域には国分寺市西元町の「武蔵國分寺」境内にあります。こちらの万葉植物園には梅、桜、椿、萩などの万葉植物約160種が植栽されています。
今から約1300年前、聖武天皇は当時大流行した疫病と飢饉から国を護り、国民を救おうと諸国に国分寺建立の詔を発令しました。それを受けて武蔵国(東京都、埼玉県の全域と神奈川県の一部)でも、国府があった府中市に隣接する国分寺市に国分僧寺と国分尼寺を建立しました。今も多くの礎石が残っており、国指定史跡になっています。



「武蔵國分寺」はその後継寺院で、先代(第28代)住職の星野亮勝氏は「国分寺が創建された時代を生きた万葉人たちが心を託して詠んだ草木を見て、往時を偲んでほしい」と、昭和25年から13年かけて独力で万葉植物約160種を採集しました。そして昭和38年、境内に万葉植物園を開きました。それぞれの万葉植物には万葉呼名、和名、万葉例歌を記した説明板が付けられています。
例えば万葉呼名の「ぬばたま」は和名が「ヒオウギの種子」で、「居明かして君をば待たむ ぬばたまのわが黒髪に霜は降るとも」の万葉歌が添えられています。これは磐姫皇后(いわひめのおおきさき)が仁徳天皇を思って詠んだ歌とされ、「朝まで寝ないであなたを待ちましょう。私の黒髪に霜が降ろうとも」という意味です。「ぬばたま」は黒髪を導く枕詞として使われています。広い園内を歩き、万葉植物を見ながら、その草木が詠まれた和歌を口ずさんでみれば、遠い古の万葉の世界に浸ることができるかもしれません。
なお、武蔵國分寺の近くには環境省選定名水百選の「お鷹の道・真姿の池湧水群」があり、四季折々の自然が楽しめる散策スポットになっています。



●DATA
武蔵国分寺 万葉植物園
住所/東京都国分寺市西元町1丁目13-16
入園料/無料
駐車場/なし
アクセス/JR各線・西国分寺駅から徒歩約15分、またはJRほか各線・国分寺駅から徒歩約20分
ホームページ/https://www.musashikokubunji.jp/manyou