こんにちは「グルメライター」の中村あきこです。
2023年12月「ミシュランガイド東京2024」が発表され、テレビやネットニュースでも話題となりました。現在世界で最も多くの星を持つグルメ都市「東京」ですが、今回新たに星を獲得した店や、近年新たに加わった、環境に配慮した持続可能なガストロノミーに対して活動している飲食店に与えられる「グリーンスター」という評価のカテゴリーが加わりさらに注目を集めています。
その評価を表す「星」の定義をご存知でしょうか。
まず1つ星ですがこれは「そのカテゴリーで特に美味しい料理」という定義。また2つ星は「遠回りしてでも訪れたい素晴らしい料理」となります。そして最も審査基準の厳しい最高評価の3つ星は「そのために旅行する価値のある卓越した料理」と定義付けがされています。
私はこの中でも3つ星の定義がいかにも美食大国フランスらしいなと感じます。
〜卓越した料理を楽しむために旅行をする〜
そんな理由で旅先を選ぶことも人生の楽しみの一つに加えてみたいものですね。
さて今回取材させていただいたのは、東京多摩地域の西側に位置する、自然豊かなあきる野市に10月にオープンしたばかりのフランス料理「L’Arbre(ラルブル)」さん。東京都の指定有形文化財を利用した特別な空間で、食と自然と文化で伝える「もうひとつの東京」をコンセプトに腕を振るうシェフの、味わい豊かで美しい料理の数々と、伝統文化のマリアージュをご紹介いたします。
風土と文化を伝える「東京テロワール」フレンチ
都内屈指の大自然が満喫できる秋川渓谷が有名な観光スポットもある、あきる野市。その玄関口でもあるJR五日市線「武蔵五日市駅」の目の前を走る秋川街道を東に約10分。国道沿いの急な坂を登っていくと「小机」というバス停があるのでそこが目印。バス停の名にもなっているのは、江戸時代山林業で財を成した五日市の名家の小机家。その住居である築149年の「小机家住宅」は、1987年に東京都の有形文化財に指定されています。
文化財の建物部分はそのまま利用し、同じ敷地内にある古民家の部分をリノベーションしたフランス料理店「L’Arbre(ラルブル)」。
白亜の洋風外観とは対照的に、その室内は純和風。当時のままの窓枠から眺める景色はまるで古き時代にタイムスリップしたかのような気分にさえなってしまいます。
またリノベーションによって古民家エリアに新たに生み出された和モダンな作りのカウンターは、ライブキッチンとなっていて料理人の手仕事が目の前に感じられます。
そんなシチュエーションの中でいただけるのが、生産者の顔が見える「東京産」にこだわったフランス料理。東京のグランメゾンでもある帝国ホテルのメインダイニング「レ・セゾン」のスーシェフとして研鑽を積んだ松尾直幹(まつおなおき)シェフが、自然農法を取り入れた畑で自ら育てたあきる野産の野菜やハーブをはじめ、青梅の野菜や小笠原のフルーツ、八丈島から届く鮮魚。東京和牛や東京軍鶏、地元で育てるヤギのチーズなど、魅力あふれる一つ一つの素材を丁寧に活かし調理提供します。
また地域の伝統文化の継承に積極的に取り組み、その一環としてあきる野の特産であるコウゾという植物を使った手漉き和紙「軍道紙」や、五日市の特産品「黒八丈」をインテリアやスタッフのユニフォームのボタンの一部に取り入れるなど、世界のここでしか味わえない「東京のテロワール」を感じられるフレンチレストランです。
東京産にこだわったガストロノミックなコース
キッチンが目の前に眺められるカウンター席に案内され、本日のコース料理の説明を受けます。
事前に予約しておいたのは、[平日限定]ムニュ レジェ¥9,900(税込)というランチコース。メインディッシュの肉または魚を選びます。
この日のメインディッシュは、「八丈島から届いた金目鯛の松笠焼き ジャガイモのエクラゼ、牡蠣のムース」。または「青梅産豚 季節の野菜添え 実山椒ソース」。
どちらも魅力的でそのチョイスは非常に悩ましいのですが、その日の気分でお魚料理を選ぶことにしました。
メインディッシュが決まったところで、食事が始まります。ドリンクリストもワインばかりではなく、東京産の地酒や地ビールなどもありフレンチの枠にとらわれない柔軟なラインナップです。また、店の場所柄、車で来店するお客様も多いとの理由から、ノンアルコールのドリンクも用意されています。
アミューズ とは正式にはアミューズ ブーシュ。フランス語で口を楽しませるものという意味。
口に運ぶのが惜しいような盛り付けは、あきる野の森や川をイメージしたような世界感。まずは
目で楽しむべきアミューズです。
カリッと焼かれた薄いパンに挟んだ岩魚(いわな)のムースは海苔の風味がアクセント。柿と人参をサンドした一品も、生ハムの塩気と生姜のピュレの香りの豊かさや、パッションフルーツの酸味が複雑に調和。
松尾シェフが畑で育てた島南瓜のポタージュは滋味深くほっこりとした優しい味わいです。
まるで「この場所へようこそ」とお迎えをされているような温かい気分になります。
アミューズの後には野菜の美味しさが際立つオードヴルが二皿
皮付きのまま低温でじっくり煮込まれた菊芋はまさに大地の香り。「皮ごと調理することで香りが逃げず旨みもしっかりと残るんです」と松尾シェフ。東京Xのしっかりとした肉質にも負けない力強さの菊芋は、オマール海老の殻から採ったソースが絡み三位一体となる一皿。
もう一方、瞬間ボイルされサクッとした食感のアオリイカとカリフラワーの相性がとても良く、間に挟まれた薄切りの林檎の食感と爽やかさがクセになるオードヴルは、イタリア料理の経験もある松尾シェフのイカ墨を使ったトマトソースとともに楽しめる一皿。
メインディッシュは鱗をサクサクに揚げ焼きにした金目鯛。その下にはジャガイモを粗く潰したエクラゼと牡蠣のエキスを泡状にしたソースが添えられています。
カリカリとした皮の食感と、ふっくらジューシーな金目鯛は肉厚でまるでお肉のよう。軽い牡蠣のソースとジャガイモのエクラゼとの相性が抜群の一皿です。
この牡蠣のソースは、松尾シェフが帝国ホテル時代に師事した、ティエリーボワザン氏が来日したばかりの頃によく作っていたという、シェフの思い出の料理でもあるそうで、師匠へのオマージュが感じられる一皿です。
別添えされたケールのサラダは、青梅の有機栽培の契約農家から届いた甘みの強い縮みケール。4種類の生のケールと、揚げ焼きにしたケールが盛られ、食感や味の違いを楽しみます。
青梅の冬の朝の寒さは厳しく、そのため甘味が凝縮されているそうで、噛むたびにその甘味が感じられます。
提供された瞬間に「綺麗〜」と思わず声が漏れてしまう色鮮やかなデザートに続き、一手間かけられた小菓子、食後のコーヒーに至るまで、歴史ある建物の中で過ごす特別感。
目の前で仕上げられる美しく味わい深い料理の数々と、料理人の手仕事を間近で眺め、時折心地よい会話を愉しみながらいただく至福の時間がここにはあります。
生産者を輝かせる料理人の地元ファーストな取り組み
自然豊かな東京多摩地域で生まれ育ち、東京都心のグランメゾンでの経験を持つ松尾シェフがこのあきる野で独立を決めたのは「もう一つの東京」である東京多摩西部の地元を活性化させることなのだそう。
「地元の生産者が輝けるよう、都心部へ発信をしていきたい」と気持ちは何より地元ファースト。食材だけでなく、後継者に恵まれず廃業に追い込まれている地元の伝統文化や工芸品についても応援し、この店から発信をしていきたい」と話します。
自分の育てた野菜をまるで我が子のように説明する松尾シェフは、「畑にいるときに料理のアイデアが生まれるんです」と話します。コースの内容は1カ月半くらいのペースで変わります。
またサスティナブルな取り組みとして、毎週木曜日には「Aruhino」というランチメニューを提供。普段の営業でどうしても出てしまう食材の端材を利用し、無駄を出さない工夫がなされたオリジナルのメニューが楽しめます。
確かな生産者の作る「東京産」にとことんこだわり、未来の地元のことを考えたフランス料理「L’Arbre」。ここでしか味わえない魅力を目的に、ちょっと足を伸ばしてお出かけしてみてはいかがでしょうか。
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グルメライター 中村あきこ
グルメライター/日本とフランスの料理学校でフランス料理を学び、帰国後、都内フレンチレストランでサーヴィスに従事。マネージャーやウエディングプランナーを経験。また、料理とワインのマリアージュの素晴らしさに心が奪われた事をきっかけに、JSA認定ソムリエ、シニアソムリエを取得。お店に立つ側と食べる側、両方の視点から感じたものを、素直な言葉で綴り、そのホスピタリティを伝えている。現在は知人の店でヘルプシェフとしてキッチンに立つことも。二児の母。長男の育児中の食の悩みから、幼児食インストラクターを取得。親子で楽しく囲める食卓も日々研究中。
施設名 | L’Arbre (ラルブル) |
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住所 | 東京都あきる野市三内490 |
TEL | 042-596-0068 |
営業時間 | ランチ 12:00~ / 12:30~ ディナー18:00~ / 18:30~ |
定休日 | 火・水・木曜日 ※木曜日はAruhino(アラカルトのみ)を営業 詳しくはお店ホームページをご覧ください。 |
公式サイト | https://www.larbretokyo.com/ |
※最新の情報は公式サイトをご確認ください。