ソムリエ出身のオーナーシェフが営む檜原村の「villa delpino(ヴィッラ デルピーノ)」 | イマタマ

ソムリエ出身のオーナーシェフが営む檜原村の「villa delpino(ヴィッラ デルピーノ)」

2025/01/14

こんにちは、イマタマグルメ ライターの中村あきこです。

昨今『ソムリエ』という言葉が幅広い分野で使われ、ワインの専門知識を持つプロに限らず、野菜ソムリエや、温泉ソムリエといった、その道の普及に努める専門家もそう呼ばれていますが、もともと『sommelier(ソムリエ)』とはヨーロッパが発祥で、レストランサーヴィスなどでワインを管理し提供する人のことを指します。

その起源には諸説ありますが、中世ヨーロッパで王様の食料や飲料を乗せた荷車を指すフランス語の『sommier』という言葉が変化し、その荷車を引く動物を管理する人のことを『sommelier』と呼んだのだそう。その後、時代の流れとともに現代のスタイルへと近づいていきます。

ルネサンス期には宮廷貴族の食事とワインの管理をする仕事へと変化し、さらにフランス美食の黄金時代とも言われる19世紀には、現代のようにレストランでのサーヴィスの中でワインを扱う人をそう呼ぶようになり、現在フランス、イタリアでは国家資格として認められています。

日本でも「一般社団法人 日本ソムリエ協会」が認定する呼称資格を持つ多くの「ソムリエ」が飲食店や酒類・飲料を販売するお店などで活躍します。ワインを選び提供する際は、そのワインにふさわしい温度や、グラスのチョイス、提供のタイミングや相性料理、さらにはTPOもなども考慮しながら、その魅力が最大限に伝わるような提案をしているのです。

さて今回は、イタリアワインに魅せられたワイン・ソムリエであるオーナーシェフが、イタリア・トスカーナ地方 フィレンツェで食べ歩いた郷土料理と、それに相性ぴったりなワインを現地のスタイルで愉しませてくださる、檜原村の山間にある小さなイタリア料理店「ヴィッラ デルピーノ」さんをご紹介いたします。

一口目から笑みが溢れる
シェフが旅先で出会ったフィレンツェの味
「リボッリータ」

東京都西多摩郡檜原村は、東京都本土の中で唯一の村であり、人口は約2000人と現在は高齢化のため減少傾向にあるそうですが、自然豊かな環境の中、東京都で唯一「日本の滝百選」に選ばれている景勝地の「払沢の滝(ほっさわのたき)」や天然温泉、川遊びやキャンプといった観光やアクティビティを目当てに、年間40万人近くの観光客が訪れる観光地です。

JR五日市線の終点駅「武蔵五日市駅」から西東京バスの「藤倉」行き、または「やすらぎの里経由数馬」行きのバスに乗り、約25分。「払沢の滝入口」で下車。そこから歩いて約1分。払沢の滝へと向かう遊歩道の手前の場所にあるのがイタリアン「ヴィッラ デルピーノ」さんです。

delpinoの看板が出迎えるアプローチ。ワクワクしながら緩やかなスロープを上ります

2011年10月にオープンしたこちらのお店は、地元の常連客はもちろんのこと、檜原村に観光で訪れたお客様の、お腹と心を鷲掴みにしている人気のお店です。雰囲気あるレトロなガラス張りの扉を開けると、「いらっしゃいませ」と、こちらのお店のオーナーシェフ、松村哲朗(まつむら てつろう)さんが出迎えてくれました。

しっかりとした木造の建物は、約40年前に宮大工も入って建てられたもので、観光客や地元の方が利用する和食店だったのだそう。当時から使われている一枚板のテーブルなどをそのまま使用しノスタルジックな雰囲気を演出

どの席からも外の樹々の景色が眺められる素敵な店内。この日は私の他にも3組ほどお客様がいらっしゃり、その後は、あっという間に満席に。全部で12席ほどのオープンキッチンのフロアを、松村さんがワンオペで切り盛りされています。調理の合間を縫って、松村さんが自らお水をサーヴしてくださり、続けて丁寧にお料理を説明してくださいました。

こちらでいただけるお料理は、メニューボードに書かれている本日のランチ1種類のみ(1500円税込)デザートやドリンクは別途用意されています

この日いただいたのは「前菜一皿とパスタ二皿」のコース、この日のアンティパスト(前菜)は、イタリア・トスカーナ州の郷土料理の「リボッリータ」でした。「リボッリータ」とはイタリア語で「Ri(再び)bollita(煮込む)」という意味。白インゲン豆とカーボロネロというイタリア野菜、セロリや玉ねぎなどの香味野菜と水だけで作ったミネストローネスープに、固くなったパンを入れて再び煮込んだこのお料理は、こちらの店の冬の定番料理だと教えてくれました。

またこの日のパスタは、「ひのはら柚子と、ツナのクリームソースのペンネッテ」と「五日市ブロッコリーとベーコンのトマトソーススパゲッティー」でした。
お料理には、地元檜原村やあきる野市の野菜がふんだんに使用されているとのこと、また近隣で人気のベーカリー「森の風°(もりのぷう)」さんの天然酵母のパンも添えられます。

オーダーの最後に「お苦手な食材はございますか?」と聞いてくださり、苦手なものがあればその場でシェフとお料理の相談をすることができます。

手早くコルクを抜きながら、ワインの説明をされる松村さん。落ち着いた立ち居振る舞いと、さりげないトークは長年のサーヴィスの経験があるからこそ

せっかくなのでグラスワインを一緒にいただこうと思い、ソムリエでもある松村さんに、「リッボリータ」に合わせるワインを相談してみました。

「赤ワインが合いますよ」と、松村さん。そう言って紹介してくださったのは「CHIANTI(キアンティ)」というイタリア・トスカーナ州の赤ワインです。カジュアルに楽しめる定番のイタリア赤ワインの一つですが、私は普段は生ハムやサラミと合わせることが多く、豆と野菜のスープに赤ワインという発想がありませんでしたので、そのペアリングに興味津々でした。

カジュアルなキアンティを厚口グラスに注いでがぶ飲み。これがフィレンツェの食堂スタイルなのだそう

そして注目したいのが、松村さんがこのワインに選んだグラスです。なんとリム(飲み口)が分厚いコップ型のグラス。ワイングラスのイメージとはかけ離れますが、「このワインはこのグラスで飲むのが一番美味しいんですよ」と松村さん。様々試して行き着いたのがかつて旅先のイタリアの食堂で提供された、この厚口のコップ型グラスなのだそう。

例えば、ワインバーやレストランで使用されるワイングラスはリムが薄いものが一般的ですが、これにより舌に流れるワインの量が調節され、その味わいを複雑に引き出すことができます。逆に複雑さを求めないカジュアルに飲むタイプのワインをそのグラスでいただくと少し物足りなさを感じてしまうこともあります。

松村さんがここで提案したいのは、イタリアの下町食堂で飲むようなカジュアルな飲み方。ワインの複雑さ味わうのが目的ではなく、「難しいことを考えずにがぶ飲みできること」が最大の目的なので、敢えてこのグラスを選んだのだそうです。

一口で「さすが!」と納得です。酸味や渋みがとても穏やかに感じられ、ラズベリーやチェリーのようなフルーティーさが口いっぱいに広がります。ワイングラスのように香りを閉じ込めないので、アルコールっぽさも感じにくく、これは確かにがぶ飲みしてしまいます。

運ばれてきた「リボッリータ」は一口いただくと、豆と野菜だけのものと思えないほどの、奥行きのある旨み。胃袋にじんわりと伝わる温かさにも感動!ワインとの相性も抜群です

じっくりと手間暇かけて煮込まれた滋味深い味わいの、「松村さん特製のリボッリータ」に使われる野菜は、地元檜原村やあきる野市のもの。特にこの料理に必要な野菜であるカーボロネロ(イタリア原産の黒キャベツ)は、あきる野市の「ゆっくり農縁」さんの無肥料、無農薬のものを使います。旬のとれたてが手に入る時期がこの料理をいただけるタイミングでもあります。

またスープの旨みをたっぷり吸い込み、もっちりとした食感のパンがまた最高にいいアクセント。そこへ先ほどの「コップ・キアンティ」を口の中に流し込むと、あまりの相性の良さに思わず笑顔がこぼれます。

都会暮らしから檜原村への移住で感じた
『水』と『空気』の美味しさ

ソムリエでもあるオーナーシェフの松村さんが料理を始めたのは、この店のオープンと同時だったそうで、それまではレストランサーヴィスに長く就かれていました。大学在学中にアルバイトで働いていた、銀座のワインバーで「ソムリエ」という職業に憧れを持ち、その思いからサーヴィスマンとしての道を選んだのだそう。東京都心の飲食店を渡り歩いてサービスマンとしてのスキルを上げ、念願叶い試験に合格されました。

また当時働いていたお店がイタリア料理店であったことから、特にイタリアワインの奥深さに惹かれていた松村さんは、同時にイタリアへ行きたいという思いが強くなります。
そんな頃、当時の上司にフィレンツェへ行くこと、同時にそこで郷土料理の「リボッリータ」を食べることを勧められ、単身イタリア・フィレンツェへ渡ります。

街中のレストランでその料理を見つけては食べ歩き、その土地ならでは食とワインの文化を垣間見ます。フィレンツェの街の食堂で体験したコップ・キアンティに共感し、料理にも目覚めたそう。そんな現地で出会った味の記憶と経験をもとに、2011年に都会を離れ、奥様の実家でもある檜原村に移住し、オーナーシェフ兼ソムリエとして「ヴィッラ・デルピーノ」を開業しました。

柔らかく茹でた地元あきる野産のブロッコリーがソースのようにパスタに絡む、一皿目のパスタ「五日市ブロッコリーとベーコンのトマトソーススパゲッティー」
檜原村の柚子を塩で漬け込んだ「塩柚子」の塩味と柑橘の爽やかさが、まろやかなソースと絡み、飽きのこない味わい。ワインも進む二皿目のパスタ「ひのはら柚子とツナのクリームソースのペンネッテ」

大自然が残る檜原村に来てみて驚いたことがあるといいます。それは、思っていた以上に「都心」と「檜原村」の「水」と「空気」の違いを感じたこと。「例えば地元のおばあちゃんが作る普段の食事。それがとにかく美味しいんですよ」と松村さん。その理由はこの土地の澄んだ空気で育った食材と、清らかな水を使って作る料理、そしてそこで育った人の味覚で調理するからではないかと考えたのだそう。

「この場所(檜原村)はイタリアっぽいと思うんです。イタリアにはマンマ(お母さん)やノンナ(おばあちゃん)の味があるし、それがお手本。そして、そこで手に入る旬のものを工夫して食べてもらうというスタイル。ここがまさに共通点」と松村さんは話します。

これまで使っていた都心の専門業者から仕入れていた野菜をやめ、地元の旬の食材を積極的に使い、この場所でしか出せない美味しさを追求。その時期に手に入らない野菜はあえて使わず、地元産の最旬の野菜を使うようになりました。

デザートとカフェは別途オーダーができます。ドライフルーツやナッツ、トスカーナの伝統菓子アマレッティーを混ぜ込んだセミフレッド。優しい甘さとクリーミーでふんわり滑らかな食感に感動

そんな思いで作る松村さんの料理は、旬を先取りする都会の料理ではなく、旅先のフィレンツェで感じた地産地消の郷土料理のように、ここで手に入れられる良質の食材を使ってアレンジを効かせた檜原村オリジナルのイタリアン。コースはその日のおまかせ一種類のみ。それは「その日のベストの『素材』を使った、ベストな『料理』と『味』を味わって欲しい」という思いから。そんな料理に地元の方はもちろん、遠方から訪れる観光客もおいしいと微笑む。

都心から日帰りで味わえる大自然にある〜檜原村の小さなイタリア〜「ヴィッラ・デルピーノ」。美味しい水と空気で育った食材を、この土地で料理する美味しさを味わいに、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

グルメライター 中村あきこ 

グルメライター/日本とフランスの料理学校でフランス料理を学び、帰国後、都内フレンチレストランでサーヴィスに従事。マネージャーやウエディングプランナーを経験。また、料理とワインのマリアージュの素晴らしさに心が奪われた事をきっかけに、JSA認定ソムリエ、シニアソムリエを取得。お店に立つ側と食べる側、両方の視点から感じたものを、素直な言葉で綴り、そのホスピタリティを伝えている。現在は知人の店でヘルプシェフとしてキッチンに立つことも。二児の母。長男の育児中の食の悩みから、幼児食インストラクターを取得。親子で楽しく囲める食卓も日々研究中。

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DATA

施設名 villa delpino ヴィッラ・デルピーノ
住所東京都西多摩郡檜原村本宿5493-1
TEL042-598-1054
営業時間11:00~14:30(以降~22:00までは予約の方のみ)
定休日水・木・不定休
公式サイトhttps://www.facebook.com/hinohara.delpino/?locale=ja_

※最新の情報は公式サイトをご確認ください。



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