こんにちは、イマタマグルメ ライターの中村あきこです。
食のグローバル化が進む現代、世界中の食材が安易に手に入り食生活が豊かになる一方で、食の安全管理やフードロス、家畜や輸送による温室効果ガスの排出などが問題視されています。しかしながら、今や企業だけでなく個人単位でもこういった問題に積極的に取り組み、安心安全で持続可能な食を目指すことが身近にもなっています。
その取り組みの一つとして「地産地消」があります。実際にイマタマグルメで取材をさせていただいた多摩地域の多くの飲食店で、地元の生産者の食材が当たり前に使われていることを知り、「地産地消」の良さをとても身近に感じています。これは食材の新鮮さや、安心安全に繋がるだけではなく、その生産者のものを使い続けることで、再生産が可能になり、その産業を持続させることができます。
また「フード・マイレージ」と言われる物資の輸送の際にかかるエネルギーや、環境への負担も減らすことができるのです。つまり、飲食店と生産者の信頼関係によって生まれる美味しい料理は、私たちのお腹と心を満たし喜ばせるだけでなく、この先に続く未来の食のシーンをも担っているのです。
さて今回取材をさせていただいたのは、イタリアで「スローフード」の文化を体験し学んだ、料理人ご夫妻が営む、東京武蔵野市にあるイタリア料理とナチュラルワインの店「momento(モメント)」さんです。食材にこだわった繊細な料理が人気で、近年注目されている「ヴィーガン」や「ベジタリアン」向けの本格的なプラントベースのお料理も味わえるという同店で、シェフのこだわりの料理が存分に味わえる「シェフコース」と、自然派ワインのマリアージュをご紹介いたします。
ゆったりと時間をかけて楽しみたい
こだわりの詰まったウェルカムフードから
ドルチェまで全7皿の「シェフコース」
武蔵野市御殿山にあるイタリア料理とナチュラルワインの店「momento(モメント)」は、JR中央線・京王井の頭線 「吉祥寺」駅より徒歩4分、武蔵野市と三鷹市にまたがる緑豊かな「都立井の頭恩賜公園」の入り口にほど近い、吉祥寺通り沿いにあります。
「スローフード」の良さを伝えてくれるというこちらのお店では、近隣の畑で栽培された旬の新鮮な野菜や、国産の天然の魚介類、またホルモン剤などを使用しない放し飼いの肉類といった、少量ながらも丁寧に育てられた食材を使用しているそう。またイタリアを中心とした少量生産のナチュラルワインも用意されているとのこと。そんな情報を元に、わくわくと期待に胸膨らませながらお店の扉を開きます。
「いらっしゃいませ」とにこやかに出迎えてくださったのはマネージャーの井上紗奈(いのうえ さな)さん。フロアの奥にはガラス張りのキッチンがあり、オーナーシェフの有本琢磨(ありもと たくま)さんの姿も見えます。アンティークで落ち着いた雰囲気の店内は、柔らかな照明が心地よくて時間を忘れゆったりと過ごせそうです。
井上さんと有本さんご夫妻は、実は共に料理人。フロアでサーヴィスを担当する奥様の井上さんは、イタリアでシェフの経験があり、さらにはご実家が立川市でぶどう園を経営され、ワイン用の葡萄の栽培にも携わっていらっしゃるとのこと。お料理もワインも安心してお任せできます。
一息ついたところで、井上さんよりお料理とワインの説明をいただきました。今回は事前に予約をしておいた全7皿の「シェフコース」(8,000円 消費税・サービス料込み)に合わせて、井上さんにおすすめしていただいた、美しい橙色の「オレンジワイン」をオーダーしました。オレンジワインとは白葡萄を、赤ワインを作る工程を経て醸造するワインです。
まず最初にシェフからのウェルカムフードが登場します。シェフ手作りの木の器に盛られていたのは、スペインのピンチョスのようなおつまみが2種類。「オリーヴェ・アスコラーネ」と「スロヴェニア産の無添加の生ハムのフォカッチャサンド」です。まずは可愛らしい見た目に思わず微笑んでしまいます。
「オリーヴェ・アスコラーナ」とは、アスコラーナという種類の大粒のグリーンオリーブの種の部分をくり抜き、中に牛や豚の挽肉を詰めて衣を付けフライにした、イタリア・マルケ州の名物料理です。
オリーブの中には自家製のサルシッチャが詰めてあり、きめ細かいパン粉の衣のカリッとした食感の後に、お肉の甘みが口いっぱいに広がります。そこで合わさるオリーブの塩気が相まって、一口サイズのおつまみながらも完成された味わいに感動です。
もう一方の小さなフォカッチャサンドは、生ハムの優しい塩気が、添えられたニンジンのヴィネグレットやフレッシュハーブと一緒に食べると一層引き立ちます。シェフからのご挨拶がわりのフィンガーフードと共に、繊細ながらも力強い味わいのおすすめのオレンジワインをいただき、この後に続くお料理を楽しみに待ちます。
ウェルカムフードの後は、温製の前菜が3皿提供され、旬の食材で織りなすシェフのお料理を、小さなポーションでいただけるのが嬉しい「シェフコース」をゆったりと堪能します。お料理が少し進んだところで、じゃが芋を生地に練り込んだフォカッチャと、自家製天然酵母のカンパーニュ、2種類の手作りパンが登場し、いよいよコースもクライマックスへ。一見ボリュームがあるようなお料理の内容ですが、なぜか次々とするっと胃に収まっていくのが不思議です。
「ヴィーガン料理もお出ししているということもあり、ヘルシーでなるべく胃に負担がかかりにくいようにしているんですよ」と、井上さんは話します。バターなどの油分を使いすぎないようにし、素材の持つ旨みや時間をかけて煮込むことなどで凝縮感を出し、味に深みを出す工夫をされているのだそうです。
海老の殻を砕いて煮詰めた芳醇な香りと旨みが凝縮された味わいの「海老のビスクソースのリングイネ」と、3日以上かけて煮込まれたソースで仕上げたメインの「放牧牛タンの100時間デミグラスソース」をいただき、大満足のひと時。優しい味わいながらも、その一皿一皿が記憶に残る、お料理の数々でした。また、溌剌とした酵母の生命力を感じる自然派のオレンジワインは、飲むたびに味わいに変化をもたらし、それぞれのお料理に寄り添ってくれたのも印象的でした。
ヘルシーなのにちゃんと満足感が得られる
プラントベースの「ヴィーガンドルチェ」
イタリア東部にあるマルケ州で、「アグリツーリズモ」という「農業」と「観光」を組み合わせた宿泊施設付きのレストランを通じて知り合ったお二人は、ここ吉祥寺の「momento」を拠点としながら、立川市富士見町の「井上ぶどう園」でワイン造りに携わり、そこで毎年開催される、食と音楽のイベント〜音楽とワインを楽しむフェス「ART in FARM」〜なども手掛けています。
オーナーシェフの有本琢磨さんは、長野県白馬村でペンションを営むご実家に生まれ、フレンチの料理人を父にもち、幼い頃から「食でもてなす楽しさ」を身近に感じていたことから、長野県のイタリア料理店での経験を経て、単身イタリアへ。ピエモンテ州のアルバという街の郊外の小さな村にある、ミシュランにも掲載されているというトラットリアで最先端の技術を学び、その後移ったマルケ州の「アグリツーリズモ」ではオーガニック野菜や郷土料理に触れ、その良さに感銘を受けたそうです。近年では2020年行われた、「ベジタリアンチャンスジャパン」というヴィーガンの日本大会で、三國清三シェフから審査員特別賞を授与されるなど、プラントベース料理のシェフとしても注目されています。
またサーヴィス兼お店のマネージャーを務める井上紗奈さんは、元々インテリアデザインの勉強でイタリアに留学したそうですが、現地の食の文化に魅せられ料理人へと転身します。その後、約8年もの期間イタリア各地の文化と郷土料理を学び、有本さんが働いていた場所とはまた別のマルケ州にある「アグリツーリズモ」で2年間シェフを務め、イタリア発祥のスローフードやプラントベースのヴィーガン料理について多く学び、その良さを有本シェフとともに発信しています。
「イタリア人は贅沢なものを使わなくてもできる美味しい料理のことを『クッチーナ・ポーヴェラ』と言い、誇りを持っているんです、また古くから地産地消が当たり前で、どの場所でも半径1キロメートルの範囲のものを工夫して使うんですよ」と、食後のエスプレッソをサーヴしながら井上さんは話してくださいました。またイタリアでプラントベースのヴィーガン料理が一般的なのも、そこにしっかりとした味がある野菜が存在するので、魚や肉を使わずとも料理が完成するからなのだそうです。
「momento」さんでも同じように、ここから程近い三鷹市 井の頭の「ファーム ワタナベ」さんの新鮮で味の濃い野菜をはじめ、身近にある少量生産でも確かな食材を使用しています。また何よりイタリアで培った料理人お二人の経験と技術が、ヘルシーでありながらも満足感のあるお料理を生み出すのだと感じました。
「通常メニュー以外に、ベジタリアン、ヴィーガン向けのプラントベースのお料理のコースが随時用意されていますが、予約の際にお伝えいただくとスムーズです」と井上さん。こういった対応のあるお店を知っておくと、一緒に食事をする仲間も増え、より食事の楽しみが広がりますね。有本シェフと井上さんがおもてなすスローフードの世界を覗きに、ぜひ足を運んでみてはいかがですか。
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グルメライター 中村あきこ
グルメライター/日本とフランスの料理学校でフランス料理を学び、帰国後、都内フレンチレストランでサーヴィスに従事。マネージャーやウエディングプランナーを経験。また、料理とワインのマリアージュの素晴らしさに心が奪われた事をきっかけに、JSA認定ソムリエ、シニアソムリエを取得。お店に立つ側と食べる側、両方の視点から感じたものを、素直な言葉で綴り、そのホスピタリティを伝えている。現在は知人の店でヘルプシェフとしてキッチンに立つことも。二児の母。長男の育児中の食の悩みから、幼児食インストラクターを取得。親子で楽しく囲める食卓も日々研究中。
施設名 | momento(モメント) |
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住所 | 武蔵野市御殿山1−3−9 1F-C |
TEL | 070-4002-5496 |
営業時間 | ランチ 11:30〜14:30ラストオーダー ディナー 17:30〜20:30ラストオーダー |
定休日 | 毎週火曜日、第1、3、5水曜日 (ホームページのカレンダーをご確認ください) |
公式サイト | https://www.momentoitalian.com/ |
備考 | 公式SNS:https://www.instagram.com/momento_italian/ |
※最新の情報は公式サイトをご確認ください。