こんにちは。イマタマグルメ ライターの中村あきこです。
みなさんは、世界的に有名な洋菓子コンクール「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」をご存じでしょうか?
1989年に創設され「洋菓子界のオリンピック」とも称されるこの大会は、2年に一度フランスのグルメ都市、リヨンで開催されます。現在では50を超える国が参加し、予選を勝ち抜いた代表チームが本選の舞台に立ちます。競技内容は、飴細工やチョコレート細工、氷彫刻といったピエスモンテ(工芸作品)に加え、皿盛りデセールなど4種類のカテゴリーのお菓子を、各国代表3名のパティシエが1チームとなり、リアルタイムで緻密な作品を仕上げていきます。制限時間10時間という長丁場での集中力と高い技術が試される大会なのです。
そんな権威ある大会で、2019年世界第2位という、輝かしい結果を残したパティシエが、ここ多摩地域にあります。2025年7月、八王子・南大沢の住宅街にある「パティスリー メゾンドゥース」がリニューアルオープンしました。開業から13年。世界のコンクールで評価されたシェフのスイーツは、地元で長く愛され、また遠方からわざわざ足を運ぶファンもいるほどの人気です。
今回はその魅力をたっぷりとご紹介します。
ほっとする定番と洗練されたエスプリ
が共存するパティスリー
京王相模原線 南大沢駅から徒歩約7分の住宅地の通り沿いに「パティスリー メゾンドゥース」はあります。お店には駐車場も完備されているので、車での来店もおすすめです。2025年7月、旧店舗の隣に移転し、装いも新たにリニューアルオープン。真新しい白い壁が一際美しく映えるスタイリッシュな外観に目を奪われます。
午前10時のオープンに合わせてさっそく店内に入りますビスキュイのような淡いベージュカラーで統一された、ちょっぴり大人っぽい雰囲気のフロアに、ほんのりと甘い香りが漂います。それはまさに店名「メゾンドゥース(=甘いお家)」のイメージそのものです。
「いらっしゃいませ」と出迎えられ、店内を見回し、まず目に飛び込んできたのは、40種類以上のプチガトーや、ホールケーキがずらりと並んだ宝石箱のようなショーケースです。さらに焼き上がったばかりのクロワッサンやデニッシュなどのヴィエノワズリーや、マドレーヌなどの焼き菓子も次々と運ばれ店頭を彩ります。
「パティスリーメゾンドゥース」は、新宿「小笠原伯爵邸」や、国分寺「Ichirin(イチリン)」などの人気店でシェフパティシエを務めた伊藤文明さんが、2013年に独立・開業したフランス菓子をメインとするパティスリーです。
また、伊藤シェフは、独立後の2019年には、世界的に権威ある洋菓子コンクール「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」で準優勝(世界第2位)を果たし、その名声は国内外に広く知られています。
そんな伊藤シェフは、数々の経歴を持ちながらも、普段は気さくで穏やかな二児の父。お店もそんな人柄を映すようにアットホームな雰囲気で、子どもから大人まで親しみやすく、口にすれば思わず笑顔がこぼれるスイーツが並びます。地域に寄り添い、地元に根付いた温かな存在としてこの地で長く愛され続けています。
「アットホームでほっとする」
まるでこのお店のような人気商品の一つが「苺のグランショート」です。
ミルキーで甘さ控えめの生クリームと、絹のようにきめ細かなスポンジが折り重なり、一口目から計算された食感と味のバランスに驚かされます。クリームとスポンジの繊細さに苺の酸味が重なり、3つの要素が一体となって軽やかな口当たりながらも、存在感のある一品。
また、なめらかでコクのある「南大沢プリン」も、『とろけるプリン派』の方にぜひおすすめしたい逸品です。卵とミルクの豊かな風味に、苦味を抑えたキャラメルが絶妙に調和し、優しい口当たりです。
一見定番でありながらも、素材の良さとシェフの技が光る、また食べたくなる味なのです。
また対照的に、メリハリのある甘さや、クロカントな食感を楽しませてくれる、ヨーロッパのエスプリを感じるガトーにも出会うことができます。2008年に「ルクサンド・グラン・プレミオコンクール」というイタリアのリキュールメーカーが主催する大会で優勝した作品である「トレヴィ」は、甘みと苦味のバランスが絶妙な大人っぽい一品。
自家製のオレンジコンフィのほのかな苦味や、カリカリのクランブル入りのチョコレートや、ビスキュイ、ムース、ガナッシュクリームなど、様々な要素を一つに盛り込んだ贅沢なガトーです。このように「メゾン ドゥース」は、親しみやすさと洗練さ、どちらも味わえる贅沢なパティスリーなのです。
特別感のある手土産とシェフのスペシャリテ
ショーケースの中の生菓子以外にも、店内の棚にはフィナンシェやマドレーヌ、焼きドーナツやクッキー、サブレなど多くの焼き菓子が並びます。
焼き菓子は生菓子よりも日持ちがするので、ギフトや手土産に喜ばれます。
また伊藤シェフがデザインした、おしゃれな焼き菓子用のパッケージが種類豊富に用意されているので、送る側のイメージにあったものを選ぶことができるのも魅力の一つ。
マドレーヌや焼きドーナツなど焼き菓子は、全て1個単位でも販売されているので、手土産を選ぶ際に味見用としても購入でき、自分の納得のいくものを贈ることができます。ギフトに最適な焼き菓子はいくつかありますが、特に私がおすすめしたいとっておきの商品はこちら。
「八王子日和〜丘のそよ風〜」という「八王子パッションフルーツ」のピュレを使ったマドレーヌです。2010年から地元の農家が栽培に取り組み、その芳醇な香りと優しい酸味、糖度の高さが特徴で高く評価されています。伊藤シェフも生産者から分けてもらった苗木を自宅で育ててみたところ、そのあまりの美味しさに驚き、この土地に適したフルーツであると確信したそうです。
そのパッションフルーツのコンフィチュールを中に詰め込んだこのマドレーヌは、封を開けて口に運ぶと香る芳醇なアロマにまず驚きます。太陽をたっぷり浴びたパッションフルーツの甘さとしっとり焼き上がった生地が見事に調和。ギフトで受け取った方の笑顔が目に浮かびます。
店頭で販売されるギフト商品は、八王子市のふるさと納税返礼品にも採用されています。伊藤シェフは「八王子はイチョウでも有名なので、イチョウを模ったリーフパイも考案中なんです」と語り、地域の魅力をお菓子に込めて発信しています。開業にあたり選んだこの南大沢という場所は、当初は特別なゆかりがあったわけではありませんでした。けれども今では、地域に根差し、八王子を代表する洋菓子店として親しまれる存在になっています。
愛媛県出身の伊藤さんは、横浜ロイヤルパークホテルでのアルバイトでこの道に進み、新宿 曙橋の名店「パティスリー メゾン ラヴィドゥース」に就職。パティシエとしての本格的な道を歩き始めた頃、師匠の勧めで本場パリでの修業も経験したそうです。当時は単にお菓子を学ぶというよりも、慣れない環境で生活する中での学びが多かったそうで、文化にも興味関心を持ち、日本にいた頃「こうでなければいけない」と感じていた固定観念からの脱却もできたと話します。
また「メゾンドゥース」独立の1年前に経験した「クラブ ガレット デ ロワ コンクール」への出場が、パティシエとして、改めてお菓子と向き合った大切な転機となったそうで、その大会で優勝した「ガレット デ ロワ」は今も伊藤シェフの想いが詰まったスペシャリテとして、毎年1月に販売されています。
「ガレット デ ロワ」とはフランスの新年を祝う伝統的な焼き菓子で、織り込みパイ生地の中にたっぷりのクレームダマンドを詰めて焼き上げます。中に隠したフェーヴ(本来はそら豆の意味ですがここでは小さな陶器の置物)が当たった人は、その日は王様になれるという、その名も「王様のガレット」。
「どのコンクールも自分を大きく成長させてくれましたが、特にこの大会は『菓子職人としてどうお菓子に向き合うべきか』という方向性を示してくれた気がします」と話す伊藤シェフ。このコンクールは、織り込みパイ生地の成形から、レイエという模様入れの見た目。また中に詰められているクリームのなめらかさとパイ生地のバランスや焼き上がりの美しさ、味わいに至るまで、さまざまな審査基準から総合的に判断されて最優秀作品が選ばれます
「メゾンドゥース」の「王様のガレット」は、その日本一の称号を持つシェフによって生まれた、確かな技術と美意識が詰まった特別な一品です。模様の美しさと、サクサク軽やかな食感、アーモンドの香り高さが、評価された伊藤さんの「ガレット デ ロワ」は毎年11月ごろから予約が始まり、1月に受け取りができるので、気になる方はぜひホームページなどでチェックしてみてください。
ほっとする親しみやすさと、フランス仕込みのエスプリが同居する本格的なパティスリー「メゾンドゥース」。街角の景色を楽しみながら、わざわざ足を運びたくなる、そんな多摩のとっておきの一軒です。
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グルメライター 中村あきこ
グルメライター/日本とフランスの料理学校でフランス料理を学び、帰国後、都内フレンチレストランでサーヴィスに従事。マネージャーやウエディングプランナーを経験。また、料理とワインのマリアージュの素晴らしさに心が奪われた事をきっかけに、JSA認定ソムリエ、シニアソムリエを取得。お店に立つ側と食べる側、両方の視点から感じたものを、素直な言葉で綴り、そのホスピタリティを伝えている。現在は知人の店でヘルプシェフとしてキッチンに立つことも。二児の母。長男の育児中の食の悩みから、幼児食インストラクターを取得。親子で楽しく囲める食卓も日々研究中。
施設名 | パティスリーメゾンドゥース |
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住所 | 東京都八王子市南大沢2丁目206−9 |
TEL | 042-689-6221 |
営業時間 | 10:00~19:00 |
定休日 | 火曜日 |