こんにちはイマタマグルメライターの中村あきこです。立川市羽衣町、西国立駅から徒歩約1分の場所にある「オーベルジュときと」をご存知でしょうか?
ここには以前「無門庵」という老舗料亭があった場所で、その歴史は古く、日中戦争の真っ最中であった1938年に「ホテル無門庵」として開業したのが始まりだったそうです。その後2019年に惜しまれ閉業。そんな歴史を感じる場所に2023年4月、当時の門や茶室など面影を残しながら新たに生まれたのが、食・茶・宿にこだわったラグジュアリーな空間を提案する「オーベルジュときと」。ここ最近、多くのグルメファンから注目されています。
同店がかかげるコンセプトは『めぐるめぐみ』。日本の美しきめぐみの食材をあますことなく感謝していただく精神を大切に、確かなものを取り寄せ、数々のテクニックや演出でゲストをもてなし、愉しませ、次世代へと伝える『アルティザン・キュイジーヌ』。「Artisan(アルティザン)」とはフランス語で熟練した職人を表す言葉で、「Cuisine(キュイジーヌ))は料理。つまりそれは「~匠の手仕事から生まれる料理~」のことです。
国内外で数多くの実績を残してこられたシェフを主軸に、ソムリエ、日本茶マイスター、パティシエなど、各セクションに経験豊富なスペシャリストが集められ、食材や器、カトラリー類など、この環境を取り巻く全てに関わるアルティザンと共に、日本の美しさを世界へと発信し、「究極の価値ある料理」の提供を目指しています。
さて、そんな「オーベルジュときと」で、2024年10月1日、2日に『ときとと』というコラボイベントの第一回目が開催されました。初回ゲストとして、銀座の二つ星フレンチレストラン「Restaurant ESqUISSE(エスキス)」の総料理長リオネル・ベカ氏が招かれ、多くのグルメファンにとって見逃せないイベントとなりました。
この日のために、およそ2ヶ月にもわたる綿密な準備期間を経て披露された、夢の饗宴を振り返りながら、東京 立川から世界に発信する唯一無二のジャパニーズ・キュイジーヌを提供する「オーベルジュときと」についてご紹介したいと思います。
テーマはTransmission~伝達~
食材の『瞬』を頂きゲストが笑顔になる瞬間
この日は普段とは少し違った趣向のメニューが用意されるとのこと、日本料理の「オーベルジュときと」のお料理と、フランス料理の ESqUISSE(エスキス)のお料理が一体どのようにコラボレーションされるのかと期待に胸が膨らみます。
ライブ感が堪能できるオープンキッチンのカウンター席に案内されて、目の前に置かれたメニューを手に取ると、そこには今回のテーマである「Transmisson~伝達~」というタイトルが記されています。これには、未来のグランシェフへ伝統や技術を継承するという意味も込められているそうで、両店の新進気鋭の若手料理長も一緒に腕を振るいました。
メニューを開くと全10品の料理名がまるで美術作品のキャプションのように書かれています。例えば1品目、『ときいろ・Unused or recycle seafood 希少な海産物・黒文字』。このように料理テーマ・調理法・食材がシンプルに記されているだけで、この時点ではどんなお料理が出てくるのかは全く想像がつきません。
そんなタイミングでこちら「オーベルジュときと」の総指揮を取る、総合プロデューサーの石井義典 総料理長より、お料理の説明がありました。石井義典さんは、京都吉兆嵐山本店の副料理長として研鑽を重ねた後、国連大使の公邸料理人として海外に赴任。20年以上も海外を拠点にされていたそうです。また、ロンドンの高級懐石料理店UMUをミシュラン二つ星獲得に導いた初の日本人シェフとしても有名な方。このイベントをリオネル べカシェフとともに準備され、その思いをゲストに伝えます。
説明から今回のお料理は、お互いのお店へ伝えられたテーマを受けた側が解釈し作られていったということがわかりました。この一品目は、ときとから伝えられたテーマだそうで、それをESqUISSE流に解釈し表現。それを最終的に両店ですり合わせ一皿に完成させたのだそうです。
日の出や日の入りの瞬間の空の色を思い起こすような「ときいろ(鴇色)」の器に盛られた一皿が登場。ときいろとは鳥の鴇(とき)が翼を広げた時のピンク、オレンジ、赤のグラデーションの色合いで、この器は石井総料理長が作陶されたものなのだそう。
その鴇色(ときいろ)の器には、藁で燻した鰹と焼き茄子が盛られます。日本料理らしいこの組み合わせに、フレンチのシェフが「~Unused or recycle seafood 希少な海産物~」というテーマから、古代ローマ時代から存在した地中海の発酵調味料の「ガルム」を合わせます。
「ガルム」は魚の内蔵など、本来廃棄されてしまうものも余すとこなく使って作られるサスティナブルな調味料です。地中海の島で生まれ育ったリオネル べカシェフの故郷でもあり、限りある海の資源を大切に扱うシェフたちのメッセージが込められている一皿です。
ほんのりと甘い香りに癒される黒文字(クスノキ科の植物)から抽出した、鴇色のジュレが添えられていて、全て一緒に口に含むと、一瞬にしてその味わいが三位一体となり、和食やフレンチの垣根をこえたその先にある感動へとつながります。来日して10年以上、日本人よりも和の食材を知り尽くしているリオネル ベカシェフの世界観が、ときとの空間にすーっと溶け込みひとつになったような一皿でした。
またそれらのお料理全てにペアリングさせるドリンクの内容も素晴らしく、アルコールまたは、ノンアルコールそれぞれ好みのコースを選んでお料理と共に楽しむこともできます。「七賢(山梨県)」の泡酒 エクスプレション2006から始まるアルコールのペアリングコースは、中には入手困難なものもあるワインや日本酒、食後のグラッパに至るまで、すべて日本で生まれ、それぞれにストーリーがあるお酒をソムリエがチョイス。また、和紅茶に黒文字を抽出したティーソーダを最初の前菜に合わせるなど、ノンアルコールドリンクのペアリングコースは、日本茶を熟知した専門のスタッフが様々なお茶をアレンジします
前菜からデザート、食後のミニャルディーズに至るまで、お互いが投げかけるテーマを解釈して生まれた料理がとても興味深く、常に五感を働かせながら楽しめたとても贅沢なひと時でした。このようなお料理がいただけるのは、まさにコラボという企画の醍醐味です。今回は石井義典シェフと、リオネル ベカシェフによる、二つ星シェフの饗宴でしたが、次回また普段は味わえないコラボ企画が用意されているとのこと。次回も楽しみですね。
伝説のハンターから直接仕入れる
究極のジビエをはじめ
全国から集まる日本の宝を世界に発信する場所
「オーベルジュときと」の贅沢とは、豪華絢爛なものをずらりと並べておもてなしをする贅沢さとは一味違います。総合プロデューサー石井義典さん、総支配人 大河原謙治さん、料理長 日山浩輝さん3名の、京都吉兆嵐山本店をスタート地点とし、国内外で多くの研鑽を積んだシェフたちが、日本の美しき豊かな山・海・大地の真のめぐみや、探し求めた希少で究極の食材を、最高の技術と、心を込めたサービスでゲストをおもてなします。
メニュー構成は2ヶ月ごとに大きく変わるそうですが、食材は日替わりとなり、その日に入荷する最高の食材でコースが構成されるそうです(カウンター席14品 63,250円、テーブル席10品 31,625円)。この日は、希少な食材の一つに、伝説のハンターが仕留めた猪肉と、鹿肉がお料理に登場しました。
「ときと」では猪や鹿などのジビエ類は、専門の猟師から直接仕入れるのだそうです。それは、類まれな経験と知識を持つ伝説のハンターが仕留めた日本で手に入るジビエの中でも1%にも満たない希少なものだそうです。
なんとイベントの取材をした日は偶然にも、その伝説のハンターである太田氏がゲストで同席されていたこともあり、この希少なジビエについてのお話を伺うことができました。
例えば猪においては、日本では99%以上が罠を仕掛けて捕まえるそうです。実は罠にかかった獲物が暴れ回ると、体内にアドレナリンが発生するそうで、そのアドレナリンが体内にストレスを与え、肉自体の美味しさが損なわれてしまうのだそうです。
しかしながら日本で1%以下と言われる太田氏の狩りは、そのアドレナリンを発生させないよう、リラックス状態の時を狙い、急所を一発で撃ち抜くという稀有な技術で仕留めます。またその場ですぐに処置することで、肉には一切臭みが残らないそうです。石井総料理長曰く「太田さんのジビエを知って、これまで食べてきたジビエは何だったんだと思いました」。と称賛します。
「ときと」のスペシャリテの一つでもある、生の魚介類を使った一皿は、「うじお」という無色透明のとろりとしたソースが添えられています。一口いただいた瞬間に海を思い出すような香りが口中に広がり、本来の甘みや旨みが最大限に引き出される味わいに驚きました。またお刺身=醤油という固定観念が取り外され、新感覚の味わいを知ることができました。
これから冬に向けて食材も変わるそうで、特にこの時期に自然界で生き抜くための力を蓄える為、美味しくなるジビエや冬野菜、北の魚等がメインになってくるとのこと、冬のコースも待ち遠しいですね。
また、石井総料理長が自ら1000個以上もの器を作陶した器でゲストをおもてなしするのですが、それだけでなく日本のアルティザンが生み出す工芸についても、お料理を通してゲストへと伝えています。
手のひらで包み込んだ時の感触が、吸い付くように滑らかな輪島塗のお椀や、斬新なデザインの若手陶芸作家や、乳白色の色合いとフォルムが美しい、東京発のガラス工芸作家の器なども登場し、このひと時を盛り上げます。
このように、すべてが高価なもので囲まれているのではなく、ルーツやバックグラウンドが確かなものを集めて、心を込めてゲストをおもてなしするのが「オーベルジュときと」流のおもてなしです。なんとも優雅、贅沢ですよね。
石井総料理長は、「堅苦しい格好でなく、誰もがリラックスした気分で食事を愉しんで欲しい」とおっしゃいます。それはまさに分け隔てなくおもてなしをするという茶の湯の精神そのものです。
私たち日本人も今一度立ち止まって、そんな身近にある日本の豊かなめぐみや、伝統的なものの良さを見直し、味わってみるのも大切なことかもしれません。多摩地域に、このような価値ある場所があることを嬉しく思いました。
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グルメライター 中村あきこ
グルメライター/日本とフランスの料理学校でフランス料理を学び、帰国後、都内フレンチレストランでサーヴィスに従事。マネージャーやウエディングプランナーを経験。また、料理とワインのマリアージュの素晴らしさに心が奪われた事をきっかけに、JSA認定ソムリエ、シニアソムリエを取得。お店に立つ側と食べる側、両方の視点から感じたものを、素直な言葉で綴り、そのホスピタリティを伝えている。現在は知人の店でヘルプシェフとしてキッチンに立つことも。二児の母。長男の育児中の食の悩みから、幼児食インストラクターを取得。親子で楽しく囲める食卓も日々研究中。
施設名 | 「Auberge TOKITO」(オーベルジュときと) |
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住所 | 東京都立川市錦町一丁目24番地26 |
TEL | 042-525-8888(お問い合わせ番号) |
定休日 | 火曜日, 水曜日 |
公式サイト | https://www.aubergetokito.com/ |
備考 | 予約専用番号 食房 042-525-2492 茶房 042-525-1124 宿房 042-525-2424 https://www.instagram.com/aubergetokito/ (@aubergetokito/) |
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