こんにちは、イマタマグルメ ライターの中村あきこです。今回のイマタマグルメは、〜お酒と愉しむ大人時間〜として「オーセンティックバー」をご紹介します。
オーセンティックは「本物の」「正真正銘の」「信頼できる」の意味があり、そのようなバーでは、お酒の知識と経験あるプロのバーテンダーが、本格的なお酒(洋酒)やカクテルでお客様をおもてなしします。お店のメニューの主役はお料理でなく「お酒」になるので、ナッツやチーズ、チョコレートなどをおつまみに、静かな空間でゆっくりとお酒を楽しむことができます。
飲食店における「バー」のカテゴリーにはさまざまな形態があります。バーテンダーがワンショット(=一杯)のお酒を提供する「ショットバー」。これはボトルキープができるスナックのようなバーに対して区別されたものです。カジュアルなスタイルですと、立ち飲み形式の「スタンディングバー」や、お酒だけでなくお料理にもこだわった「ダイニングバー」などがあります。
お酒の種類でカテゴリー分けされているバーとしては、「ワインバー」などがあり、さらに最近では「MIXOLOGY (ミクソロジー)バー」というカテゴリーもあります。「ミクソロジー」とは「Mix(混ぜる)」「Ology(学問)」との造語で、「混ぜること」をとことん追求したカクテルを提供するバーで、伝統的な処方で作るオーセンティックバーのカクテルとは対象に、まるで化学の実験のような革新的な手法や、素材も多種多様。また文化的、芸術的な観点でカクテルを作り提供するという、いわゆる料理の世界で言う「ガストロノミー(美食学)」のようなものなのです。そこでは作り手を「バーテンダー」ではなく「ミクソロジスト」と呼びます。
そんなお酒を中心として人々が集まる「バー」は、その内容や提供の仕方、場所によって多様であり、グルメシーンには欠かせないカテゴリーの一つです。さて今回は多摩地域でも多くの種類のバーが軒を連ねる立川市で、落ち着いた雰囲気の中、本格的なお酒が愉しめるオーセンティックバー「Bar あぐりこ」さんを取材させていただきました。
「アグリコーロ」というイタリア語で「農業」という意味の言葉を文字った「あぐりこ」という店名通り、地元産などの野菜を使用した「野菜のカクテル」や、小笠原のフルーツや烏骨鶏の卵を使ったオリジナルカクテルなど、ここでしか味わえない唯一無二のメニューが味わえます。
オーナーが長年かけて集めた、希少なウイスキーの品揃えも必見! マニアも唸る1本と出合えます。お酒を知り尽くす経験豊かなバーテンダーとの会話を愉しみに訪れる人も多い「大人の隠れ家」をご紹介します。
ちょっぴり秘密めいた隠れ家バーでいただく
素材を活かした唯一無二の「野菜のカクテル」
店はJR立川駅北口から徒歩5分ほどの、立川市曙町2丁目の飲食店が多く軒を連ねる一角の、少し見つけにくい場所にあります。入り口がひっそりと奥まっていて、初めて訪れる人は大抵迷ってしまうそう。私も説明通りに辿って歩いていったにも関わらず、入り口を見つけるまでに二度も通り過ぎてしました。
来店されるお客様の多くは、どなたかのご紹介か、インターネットの情報を頼りに訪れるそうで、今回は特別に私の通ったルートを1つご説明いたします。
まず、立川北口のルミネ前の交番から中央線の線路と並行に走る「柳通り」を東方向に歩き、ファミリーマート立川北口店の手前の角を左に曲がってしばらく進みます。「串あげ えん」さんという居酒屋まで進むと、その建物に大きく掲げられた「串あげ」の看板の隣にシェーカーとカクテルグラスのシルエットの絵が壁に描かれています。その壁の絵の真下に入口へと続く細い通路があるのですが・・・わかりますかね?
辿り着いた場所にある小さな丸い看板には「あぐりこ」の文字。幅70センチほどの狭い隙間の通路を先に進むと、エントランスがあります。見つけにくく、ちょっぴり秘密めいた入口から始まるというシチュエーションにワクワクしてしまいます。
入り口の明かりが灯っていたらオープンの合図。重い扉をゆっくりと開くと、中から「いらっしゃいませ」の声。店内はログハウスのような、木を基調とした落ち着いた雰囲気で、バーカウンターに6席と、2人掛けのテーブルが2席用意されています。
迎えてくださったのは、こちらのお店のオーナーであるバーテンダーの森田 恵祐(もりた けいすけ)さんです。「どうぞ」と案内されたカウンターのハイチェアに腰をかけ、一息ついたところで今夜飲みたいお酒を注文します。
こちらのお店には全アイテムを載せたメニューがないとのこと。「どんなものが飲みたいかを仰っていただいたり、価格なども気軽に聞いてください」と森田さん。もしも何を頼んで良いか迷った場合もぜひ相談してみてください。
この日はオープン直後の早い時間にお邪魔させていただいたので、まずは軽い飲み心地のカクテルから始めたいと思い、この店の魅力の一つである「野菜のカクテル」の中からオーダーしたいという事を伝えました。
カウンターに置かれたボードには、大根・大葉・茗荷・ゴボウに、さつまいもや生姜、バジル、小笠原ミディートマトといった野菜が書かれていて、それぞれどんなカクテルになるのかを伺いながら、特に気になった「大根のカクテル」と「ゴボウのカクテル」を注文しました。
大根を使ったカクテルなんてちょっと想像がつきませんし、どんなお酒と合わせて、どんな味に仕上がるのかとっても気になります。もちろんゴボウのカクテルも同様です。「大根のカクテルはさっぱりとしていてアルコール度数が低いので、一杯目に良いと思いますよ」と森田さん。それならばと早速いただいてみることにしました。
一口飲んで、想像していた味と違い驚きます。旬の美味しい大根をスロージューサーを使い低速で圧搾し、少し置いて辛味を飛ばした搾り汁を割りものとして使います。確かに大根の味はしっかりと感じられるものの、辛味やクセもなく「DITA」というライチのリキュールの甘みが調和した、瑞々しい飲み心地の良いカクテルです。
「スタンダードカクテルのチャイナブルーのイメージで考えました」と森田さん。オリジナルカクテルを考案する際には、スタンダードカクテルをヒントにするそうで、これは経験豊富なバーテンダーだからこそなせる技です。
「チャイナブルー」とはDITAと、色付けに青いオレンジリキュールのブルーキュラソーを加え、グレープフルーツで割ったカクテルのことで、中国の陶磁器の色を思わせる青色が特徴的。確かにそう言われてみれば、グレープフルーツのちょっぴり苦味のある味わいと、大根にも感じられる独特の風味が似ているのか、DITAと合わせることで違和感なく喉を通ります。アルコール度数も低いので、確かにスタートの一杯にぴったりです。
「チャーム」と呼ばれるお通しをいただきながら、その飲みやすさにあっという間にグラスが空いてしまいました。
ヴィンテージウイスキーなどレアなアイテムも取り揃え。
希少酒はハーフショットでも提供する本格バー
2025年で10年目を迎えるという「Bar あぐりこ」の始まりは、立川市にある「井上ぶどう農園」で2007年から開催されている「Art in FARM」というイベントへの参加だったそうです。このイベントは音楽やアートを通じて、「都市の農地の保全と活用」を目的とした活動で、この農園で収穫された「葡萄」を使ったワインや、市内で生産された「野菜」を使ったフードメニューが販売されます。それまで立川や都心でバーを経営していたことから、森田さんはそこでバーを出店し、地元野菜を使ったオリジナルのカクテルを販売されました。
これが縁となり、主催者から「イベントだけではなく実店舗化しませんか」とオファーを受け、現在の場所で「やさいのShot BAR あぐりこ」として主に地元の野菜やフルーツを使ったカクテルを提供するバーをオープンしました。その後、経営を引き継ぎ、現在はオーナーとして営業されています。
続いて「ゴボウ」を使ったカクテルに挑戦しました。飲んだ瞬間口いっぱいに広がる土の香りに驚きます。冬時期の香りが強くえぐみもある太いゴボウをささがきにして、コンベクションオーブンで乾燥させたのち50度のウオッカに浸け込み、エキスを抽出させたものがベースとなっているそうで、それはまさに「土=大地の香り」です。
さらには割りもののトニックウォーターにもこだわりがあり、キニーネと言われるキナという植物から抽出される苦味成分が含まれるイギリス フィーバーツリー社のものを使用。これが本物のトニックウォーターの味で、ボタニカルな甘苦い風味とライムの爽やかさが相まって、奥深くも軽快な口当たりに感動してしまう一杯です。
「Bar あぐりこ」には、食事の後で訪れるお客さまも多く、食後にぴったりなスイーツ系カクテルも充実しています。私はこの日の「最後の一杯」に「さつまいものカクテル」を注文しました。
見た目と味わいがまるでプリンのようなこのカクテルは、「紅はるか」という品種のさつまいもを「石焼き芋」にし、裏漉したものをキューブ状に冷凍。それにベースとなるブランデーとラムを加え、牛乳や卵黄と一緒にミキサーにかけ仕上げます。グラスの下に沈めてあるチョコレートリキュールを途中で混ぜるとまた違った味わいになり、とろけるような甘い贅沢に心から癒されます。
卵や牛乳を使うカクテルはスタンダードカクテルにも多く存在し、クリスマス時期に飲まれるミルクセーキのようなカクテルの「エッグノッグ」や、牛乳は使用しないが卵を使う「フリップ」というスタイルがあり、オーセンティックバーでは常時提供しているカクテルですが、バー以外ではなかなか知る機会がないので、馴染みのない方もいるのではないでしょうか。
森田さんの考案するこの「さつまいものカクテル」はスイーツ好きにはたまらない一杯で、こんなカクテルもあるのだと、新たなカクテルの楽しさを見出せます。季節が変わればパンプキンパイのような味わいの「カボチャのカクテル」もあるそうなので、ぜひ楽しみにしたいと思います。
今回はオリジナルカクテルをご紹介いたしましたが、ウォッカやジン、テキーラといったスピリッツ類から珍しいリキュール、またブランデーやウイスキーなども豊富に揃っているので、ストレート、ロックやソーダ割りなど、おすすめの飲み方を伺って愉しむことができます。
そしてウイスキー好きにも嬉しいこちらのお店は、ヴィンテージウイスキーや少量生産のクラフトウイスキーなどの希少なものから、スタンダードで且つ美味しいもを豊富に取り揃えています。特にスコッチウイスキーをはじめとするモルトウイスキーの数には驚きます。
希少なウイスキーは値段もそれなりにしますが、一杯3000円以上のものはハーフショット(15ml)で提供していただくことも可能なので、気になる方はぜひお試しください。お酒に関する深い造詣と、熟練された技術を持つ森田さんが、愉しく価値の高い時間を提供してくれます。
さまざまなバーがひしめく立川の街でもう少し飲みたいなと思ったら、大人の隠れ家「Bar あぐりこ」へぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。頼れるバーテンダーとの心地よい会話と、質の良いお酒で、きっと至福のアフターディナーが過ごせます。
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グルメライター 中村あきこ
グルメライター/日本とフランスの料理学校でフランス料理を学び、帰国後、都内フレンチレストランでサーヴィスに従事。マネージャーやウエディングプランナーを経験。また、料理とワインのマリアージュの素晴らしさに心が奪われた事をきっかけに、JSA認定ソムリエ、シニアソムリエを取得。お店に立つ側と食べる側、両方の視点から感じたものを、素直な言葉で綴り、そのホスピタリティを伝えている。現在は知人の店でヘルプシェフとしてキッチンに立つことも。二児の母。長男の育児中の食の悩みから、幼児食インストラクターを取得。親子で楽しく囲める食卓も日々研究中。
施設名 | Bar あぐりこ |
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住所 | 東京都立川市曙町2-21-3 |
TEL | 080-3358-3005 |
営業時間 | 18:30〜午前3:00(最終入店は午前1:00 |
定休日 | 日曜日 |
公式サイト | https://www.instagram.com/baragrico/ |
備考 | Facebook:https://www.facebook.com/aguriko/?hc_location=ufi |
※最新の情報は公式サイトをご確認ください。