【八王子市】令和に誕生した都市型ミニマム酒造多様な食事に寄り添う日本酒を目指す「東京八王子酒造」のSAKEづくり | イマタマ

【八王子市】令和に誕生した都市型ミニマム酒造多様な食事に寄り添う日本酒を目指す「東京八王子酒造」のSAKEづくり

2026/02/16

こんにちは、イマタマグルメ ライターの中村あきこです。美味しい料理には、美味しいお酒が欠かせません。「お酒」は「食」を引き立てるだけでなく、人や地域をつなぐ力も持っています。多摩エリアのお酒造りの現場を紹介するシリーズ第5回のテーマは、「日本酒(SAKE)」です。

今や海外でも和食は特別なものではなく、日常の食の選択肢として親しまれる存在となりました。その食文化を語る上で欠かせない存在として、世界から注目を集めているのが「日本酒(SAKE)」です。多彩な味わいと奥行きを持つ日本酒は、料理とのマリアージュの幅広さにおいても評価が高く、ワインと並び、ソムリエが提案する重要な一杯として、その存在感を増しています。

しかし残念ながら、日本国内における日本酒の消費量は年々減少傾向にあります。背景には、後継者不足や原料米の価格高騰などさまざまな要因がありますが、その中でも多くの蔵元が課題として挙げるのが、若年層の日本酒離れです。

イマタマグルメではこれまでに多摩地域の酒蔵を3軒取材しましたが、いずれの酒蔵からも共通して聞かれたのが、「若者の日本酒離れ」への危機感でした。かつて多摩エリアには、豊かな水源に恵まれた米どころが点在し、東京の酒造文化を支える多くの酒蔵がこの地に存在していました。ここ八王子市も、20軒近い酒蔵があったといわれています。しかし時代の流れとともに酒蔵は姿を消し、2000年代には市内での日本酒醸造は徐々に減っていきました。

そんな背景の中、若者が離れないSAKEづくりへと取り組んでいるのが、今回ご紹介する「東京八王子酒造」です。わずか11坪の都市型ミニマム酒蔵、在庫を持たない流通の仕組み、シャンパーニュグラスで飲むと、その良さがより感じられます。まるで白ワインのようにも感じるジューシーな飲み心地。つくりたての鮮度にこだわり、さまざまな食事に対応できる日本酒。そんな新しいアイデアで酒造りに挑む酒蔵の取り組みを紹介します。

「花街×酒蔵」柳揺れる黒壁通りに
溶け込むわずか11坪のミニマム酒蔵

八王子市は、江戸時代には宿場町として、近代には絹織物の街「桑都(そうと)」として栄え、発展してきました。今もその歴史の面影を伝えるのが、駅前の繁華街の一角、「中町」にある「花街・黒壁通り」です。ここでは日本遺産の構成文化財にもなっている「八王子芸妓衆」によるお座敷文化が、今も大切に受け継がれています。

黒壁に囲まれ、柳がやさしく揺れる通りは、大正時代から戦後間もなくの花街文化の名残を味わえるノスタルジックな雰囲気で、ただ散策するだけでも心が躍ります。

黒壁に白い暖簾が映える「東京八王子酒造」。JR八王子駅から徒歩約5分、花街の面影が残る中町の料亭跡に誕生した、わずか11坪の日本酒醸造所

その通り沿いに2023年6月、令和初、東京で10番目の酒蔵として誕生したのが「東京八王子酒造」です。酒蔵と聞くと、自然豊かな山あいや地方の広い敷地にどっしりと佇む姿を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、「東京八王子酒造」はそのイメージとは対照的に、八王子駅からほど近い繁華街の一角にあります。

この場所は、かつて芸者衆の待合として使われ、その後は料亭としても親しまれてきた歴史ある建物で、酒蔵の広さはなんと11坪! 普通乗用車が2台分しか入らない極めてコンパクトなスペースに酒蔵の機能が凝縮されています。

日本酒の伝統的な酒造りは、秋に収穫した米を使い、冬の寒い時期に仕込みを行う「寒造り」が基本とされてきました。冬場に仕込むことで雑菌の繁殖を抑え、低温環境の中でゆっくりと発酵を進めることができるためです。こうした伝統的な醸造工程や仕込み量、さらに熟成・保管のためのスペースを考えると、11坪という広さでの酒造りは、決して現実的とは言えません。それでも「東京八王子酒造」では、醸造・保管・流通の在り方を根本から見直し、逆手にとることで、「弱点」を「強点」に変えていました。

まず、空調設備を最大限に生かし、醸造施設の中の室温を年間を通して5℃に保って、冬場の仕込みと同じ環境を作っていました。年間を通していつでも酒造りが可能になる環境を生み出していました。また、狭小スペースで大きなタンクが置けず、小さなタンクしか設置できないことを逆手にとり、オーダー毎に仕込む「小ロット生産」を実現。在庫を抱えることがなく、オーダーメイド酒の受注も可能としていました。実際、ホテルや飲食店など多くオーダーメイド受注も多数抱えていました。

さらに「生酒」というスタイルにこだわり、火入れは行わず、搾りたてのお酒を瓶詰めではなく、主にビールなどの飲料を貯蔵・輸送・提供するために使われる円筒形の樽で、炭酸ガスの圧力で中身を注ぎ出す専用の「KEG樽」という樽に詰め、空気に触れにくい状態を作り、マイナス5℃の冷蔵庫で保管することで劣化を防いでいます。こうすることで、店やイベントなどどこでもフレッシュな「生酒」が楽しめる環境を創り出していました。

実際に、イベントや酒蔵併設のショップでは、この「KEG樽」を設置して、お客さまの目の前で「瓶詰め」するスタイルでフレッシュな「生酒」を提供。「見せ方」や「体験」の工夫を重ねていました。

このような工夫により、八王子の真夏の気温が40度でも酒が搾れる。わずか11坪というミニマムなスペースでの酒造りを可能にしていました。

麹部屋と米を蒸す甑(こしき)以外の醸造設備は全てこの中に収められています。
最小ロット290ℓからのオーダーメイドが可能。飲食店やホテルなどのオリジナルのお酒の発注も可能

八王子に酒蔵を作り地産地消の地酒をつくりたい

そんな新しい仕組みで「東京八王子酒造」は、街の中の限られたスペースでも酒造りが可能であるということを実証しました。しかし、代表取締役の西仲鎌司(にしなかけんじ)さんは「これは当初からの計画通りというわけではなかったんです」とこの10年を振り返ります。西仲さんのこの10年におよぶ挑戦は、奇跡を切り開いた10年だったといえるかもしれません。

西仲さんは八王子の老舗酒販店「河内屋」の創業家に生まれ、酒の流通、飲食店との関係づくり、そして「酒を通じて地域をつなぐ役割」を、長年現場で見続けてきました。酒屋として日本酒の世界に深く関わる中で、西仲さんの中に次第に強く芽生えていったのが「酒を売るだけでなく酒づくりをしてみたい」という想いでした。

冒頭でも触れましたが、かつて八王子には、20軒近くの酒蔵があり、さらに米どころでもありました。しかし時代の流れとともに酒蔵や田んぼは徐々に減っていきました。西仲さんはその現実を目の当たりにし、2014年に「もう一度、八王子の酒文化を取り戻したい」と決意。また、当時、2020年の「東京オリンピック・パラリンピック」が決定したこともあり、「国酒である日本酒を世界に広めたい」という思いもあったといいます。そこで西仲さんは「八王子の米で、八王子の酒造で」を理念に、八王子酒造りプロジェクト「はちぷろ」を立ち上げました。

しかし、日本酒の製造に必要な「清酒製造免許」の壁に直面します。「清酒製造免許」は、国内の日本酒消費量が減少する中、供給過多を防ぐために、新規参入が厳しく制限されてきました。東京国税局をはじめ、さまざまな機関に相談を重ねましたが、ハードルは非常に高いものでした。

同時に八王子市役所に相談。そこで「八王子は都内でも数少ない米どころ」と知ります。市の紹介で出会った一軒の農家に「酒米栽培」への転換を依頼し、2014年春、挑戦が始まりました。当初は信用を得られず作付面積もわずかでしたが、収量に関わらず一定額を支払う形を取り、田植えや稲刈りに自ら参加することで信頼関係を築いていきます。

「清酒製造免許」は、酒造りを一時停止していた長野県諏訪市にある日本酒蔵「舞姫」の経営に参加したことにより可能性を感じ、道も開けました。八王子でつくった酒米を2014年秋に長野県諏訪市の「舞姫」に送り、試験的に一タンク仕込み、2200本の日本酒ができました。荒削りながらもこの八王子産の米で酒を「髙尾の天狗」と名付けて販売したところ、2週間で完売。「東京で生まれた日本酒」というものに興味を持つ人が多いことを実感されました。

その後、12年かけて酒米づくり、日本酒づくりの挑戦を続けていく中で、「東京で米づくり」「酒づくり体験」「食育」といった価値に共感する人が増え、現在は10軒以上の農家とともに酒米を作り「はちぷろ」の取り組みはイベントのように広がっています。

八王子市高月町を中心に、農家、市民、飲食店、小売店が一体となり、酒米「ひとごこち」を育てその米で日本酒を造る

当初こうしたプロジェクトの構想の先に、田園の隣接地に酒蔵を拠点とするコミュニティー施設を建設する予定だったそうですが、2020年のコロナ禍によって最先の計画は変更を余儀なくされます。コロナ禍を経て、発想や仕組みの転換から出した答えが「都市型のミニマムな醸造施設」だったのです。

「農産物としての日本酒の価値」食中酒として食卓へ

当初の計画からは変化がありましたが、これらの取り組みは未来の呑み手や担い手のことを知る大きなきっかけになりました。西仲さんは、「東京で酒造りを行うことで実感したのが、東京では『酒蔵で働きたい』『酒造りを学びたい』という若い人が本当に多いことでした」と語ります。

「地方の酒蔵では人手不足が深刻ですが、東京では違いました。ただ醸造に興味がある人だけでなく、農業に興味がある人、ラベルデザインや、ここの建築や歴史文化に惹かれる人など、これは日本酒業界に新しい風を入れていく上で、とても良い環境だと感じています」と西仲さん。

「従来にない酒を作りたい」と自ら米作りから酒造りまでを手がける代表取締役の西仲鎌司(にしなかけんじ)さん

八王子市の地元出身で、酒蔵の減っていった街に酒蔵を取り戻したいという西仲さんの思いと、地元の人々を巻き込んでいく西仲さんのスタイルは、担い手となる若い世代だけでなく、楽しむ側である「呑み手」の若者からも関心を集めていました。

また、長年酒の流通や飲食店に関わってきた西仲さんは、「日本酒の飲酒層が50代以上に偏っていることが課題」ともいいます。「日本酒は飲食店で飲む場合が圧倒的に多く、家庭で飲まれる習慣が少ない。だからこそまずは「飲むきっかけ」をつくることが必要です」と西仲さん。

だからこそイベントや酒蔵併設のショップで、「KEG樽」を設置して、目の前で瓶詰めして提供するスタイルを取っている。各地のイベントでは若い世代から「これ、日本酒なんですか?」と驚きの声をかけられることも多く、出来立ての日本酒には発酵過程で自然と生まれる発泡感や、もぎたての果実のようなジューシーさがあり、これが若い世代にとって日本酒のイメージを大きく変えるきっかけになっているのです。「日本酒には、まだまだ切り口があると実感しています」と西仲さんは話します。

10リットルのKEG樽は、一升瓶約5本分。空気に触れにくく品質劣化を抑えられ、いつでも搾りたてが味わえるのが最大のメリット

現在「東京八王子酒造」で製造されるお酒は。「prototype(プロトタイプ)」という名前で販売されています。製造ロットごとにナンバーリングがされていて、味わいや風味がタンクごとにすべて違います。メニューには、製造ロットナンバーとその特徴を紹介する文章が書かれ、取材時には、No.18までのバージョンが完成していました。これは「理想を目指している成長工程も含めて味わってほしい」という理由からで、まだ正式な銘柄でのリリースではないそうです。

ここでは最大でも一仕込み300kgほど。個性豊かな「生酒」を造ることで、タンクごとの味の違いを「個性」として楽しんでもらいたいという思いが込められています。「少量生産ならではの難しさはありますが、『番号の違うロットを飲み比べる感覚』は、野菜やワインと同じ。農産物としての日本酒の価値をもっと伝えていきたいと考えています」と西仲さんは語ります。

そんな「東京八王子酒造」の「生酒」に若者やインバウンドで来日する外国人の方々が反応しています。実際に取材時も平日でしたが、外国人や若い方々が、酒蔵に訪れていました。

酒蔵併設の売店ではKEG樽に繋がれたサーバーで瓶詰めされ、その場で出来立てのお酒を購入することができます。(瓶詰めは720mlと300mlのみ)

また、酒蔵からわずか30秒ほどの距離に直営の飲食店「蔵人舞姫」があり、東京八王子酒造のお酒を体験することができます。ここでは食中酒としての日本酒を楽しんでもらうことを目的に、八王子と長野の食材を用いた気軽な創作和食や郷土料理などが楽しめます。

「KEG生樽サーバー」からシャンパーニュグラスに注がれる鮮度抜群の「prototype1(プロトタイプ)No.17 」と、牡蠣のグラタンや、酒粕チーズ豆腐などなどをいただきました。クリーミーな料理との相性が抜群で、ライトでジューシーながらもしっかりと芯のある味わい。まるで白ワインをいただいているような感覚になりました。

カウンター16席、テーブル席(20席)、個室(4〜8名)が完備された「蔵人舞姫」
牡蠣グラタンや銀鱈の西京焼き、あん肝の旨煮といった気軽ながらも日本酒に合う気の利いたおつまみが充実

さらに酒蔵の隣には、多くの飲食店や「芸者文化」など歴史的伝統文化・芸能の発表・体験や、伝統文化人材育成の場として機能する「演芸場」も備える「桑都テラス」もあり、八王子の繁華街とは思えない落ち着いた街並みの「中町」に息づく酒蔵「東京八王子酒造」は、「東京八王子酒造」の酒蔵は、八王子の新たな観光スポットとしても大きな役割を担っています。テイスティングも楽しめるので、「八王子旅行」として気軽に訪れてみてはいかがでしょうか。

代表取締役の西仲鎌司さん(後列右)杜氏の磯崎邦宏さん(後列中央)とスタッフの皆様

グルメライター 中村あきこ 

グルメライター/日本とフランスの料理学校でフランス料理を学び、帰国後、都内フレンチレストランでサーヴィスに従事。マネージャーやウエディングプランナーを経験。また、料理とワインのマリアージュの素晴らしさに心が奪われた事をきっかけに、JSA認定ソムリエ、シニアソムリエを取得。お店に立つ側と食べる側、両方の視点から感じたものを、素直な言葉で綴り、そのホスピタリティを伝えている。現在は知人の店でヘルプシェフとしてキッチンに立つことも。二児の母。長男の育児中の食の悩みから、幼児食インストラクターを取得。親子で楽しく囲める食卓も日々研究中。

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DATA

施設名 東京八王子酒造
住所東京都八王子市中町10−9
営業時間金曜日 12:00~18:00
土・日・祝日 11:00~17:00
公式サイトhttps://tokyo-hachioji-shuzo.jp/
備考オンラインショップ:https://shop.tokyo-hachioji-shuzo.jp/
X(Twitter):https://twitter.com/tokyo802_shuzo
Instagram:https://www.instagram.com/tokyo802_shuzo/

※最新の情報は公式サイトをご確認ください。

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