アジアNo.1に輝いたマイクロミニマム醸造所「八王子クラフトリキュール」 | イマタマ

アジアNo.1に輝いたマイクロミニマム醸造所「八王子クラフトリキュール」

2025/10/15

こんにちは、イマタマグルメ ライターの中村あきこです。今回からしばらくは、多摩エリアのお酒づくりに情熱を注ぐメーカーや人々を紹介していきます。美味しい料理にはおいしいお酒が欠かせない、美味しいお酒があればより美味しく料理が楽しめる。「お酒」は「食」を愉しむうえで欠かせない、大切なパートナーのひとつです。

多摩エリアには、ビール、ワイン、日本酒、蒸留酒、そしてリキュールなど、さまざまなお酒を造る酒造や蒸留所が多数あります。大きな設備を備えた酒蔵やブルワリーから、六畳一間のアパートの一室を工房にしたマイクロミニマムな造り手まで。その規模はさまざまですが、いずれも作り手と地域の思いが詰まった味わい深い「お酒」が、多摩の「食」に彩りを添えています。

第1回は、現役バーテンダーが手がける「クラフトリキュール」の紹介です。ビールやワインに比べると、リキュールは普段の食卓ではあまり馴染みがないかもしれませんが、実は意外と身近なお酒です。ストレートやロックで楽しむこともできますが、多くはカクテルの材料に。またお菓子やデザートの風味付けとしても広く使われています。

ギリシャで古代より「薬酒」として扱われていたリキュールは、「薬」から「嗜好品」へと発展。一般的には蒸留酒に果実やハーブ、ナッツや花などを漬け込み、甘みを加えて仕上げます。

その種類は香りや色、味わいのバリエーションは無限大。世界中に数えきれないほどのリキュールが存在し、成熟市場のヨーロッパをはじめ、アジアの新興企業からも革新的なアイテムが次々と生み出されています。

そんな世界が注目する「革新的なリキュール」がここ多摩エリアで造られています! カクテルを知り尽くした現役バーテンダーが2024年に創業した「八王子クラフトリキュール」です。

なんと創業2年目にして、ロンドンを拠点にする酒類専門の業界誌・メディアのThe Spirits Business社が主催する権威あるスピリッツの品評会の一つ「THE ASIAN SPIRITS MASTERS 」の2025年大会のリキュール部門で、金賞に輝いた「マイクロミニマム醸造所」です。

「マイクロミニマム醸造所」は文字通り小さな場所で小ロット生産を手掛ける醸造所のこと。「八王子クラフトリキュール」の醸造所は、八王子市万町(よろずちょう)の住宅街の一角。

小さなアパートの一室には、1mくらいの高さの200Lステンレスタンクが3台と、コンパクトな蒸留機が1台、それにフードドライヤーという食材用の乾燥機1台が設置されています。非常にシンプルな設備で驚きます。

ここで醸造からボトル詰め、ラベル張りまでを全て手作業で行っています。経営者は、八王子市三崎町にある「洋酒考(ようしゅこう)」というオーセンティックバーのオーナー兼、バーテンダーの島村 悟(しまむら さとる)さんです。

島村 悟さん。奥には「THE ASIAN SPIRITS MASTERS 2025」で金賞を獲得した賞状も

マルベリーの甘み×ホップのビター
大人を魅了する新感覚リキュール

島村さんは、大学生の頃、ダイニングバーでのアルバイトをきっかけにお酒に興味を持ち、在学中からバーテンダーになることを決めたそう。その修業先は「オーセンティックバー」と呼ばれる正統派のバーでした。無駄のない「所作」を重んじる師匠の下、数々の研鑽を積み、カクテルコンペなどにも出場し多くの栄誉と経験を獲得。プロのバーテンダーとして認められた2002年、独立して「Bar洋酒考」というバーを開業しました。

基本に忠実でシンプルを極めた「オーセンティックバー」は、一定層の人気はあるものの、時代はオーセンティックバーより、シェーカーを使った派手なパフォーマンスや、独自の華やかな世界観を演出するバーが喜ばれ、増える方向へ。そこで、島村さんは、「技法は変えずにお酒をより一層楽しんでもらえるもの」として、クラフトリキュールの製造を決意されました。

「マルベリー&ホップ28%」。幾何学的なデザインのラベルがスタイリッシュ

島村さんが注目したのは「ホップ」でした。ホップは一般的にビールの苦味や香りを引き出す原料として知られているハーブの一種です。「ホップを使ったお酒を作りたい」というのは、島村さんにとって長年の夢でした。また八王子のシンボルツリーである「桑」の実、マルベリーを原材料に取り入れることも同時にイメージしていたと話します。

さらには八王子の生産者として「地元らしさを表現したい」という思いがあり、八王子産のマルベリーとホップを使ってのお酒造りを実現すべく、地元農家と連携し、八王子・ひよどり山でホップとマルベリーを育て収穫量も増やしていっているのだそうです。在はまだ「100%地元産」とはなりませんが、それが実現する日もそう遠くはないのではないかと楽しみになります。最初に造った「マルベリー&ホップ28%」は、マルベリー(桑の実)とホップをメインに、10種類のハーブを漬け込んだクラフトリキュールで、フルーティーでありながら、ほろ苦さがクセになる味わいが特徴です。

黒に近いルビーレッドの外観は、まるでカシスリキュールのようですが、口に含むとその違いに驚きます。まずマルベリーの凝縮感ある甘酸っぱさが広がり、その後からやってくるホップ特有の爽やかな苦味がそれに寄り添い、最後に心地よい余韻がじんわりと残ります。さらに、ヒソップやマジョラム、オレンジピール、カルダモン、アニス他、10種類のハーブが爽やかさから奥深さまで、複雑な風味の肉付けをしています。

金賞を獲得したコンペティションでは審査員から「ホップがマルベリーの風味に豊かなニュアンスを加えていることから『難解』で珍しいが心地よい」と高い評価を得ました。仕上がりの味をイメージして逆算しながら材料を組み立ててつくる「カクテル」のように、このリキュールも、バーテンダーならではの発想で緻密に組み立てられた味。それが「難解だけど心地よい」。島村さんはその言葉に、長年携わってきたバーテンダーという仕事への自分のこだわりがちゃんと理解されて、評価してもらえたことが何より嬉しかったと話します。

「最初の作品がどう評価されるのか」と軽い気持ちで出品。それが金賞を獲得したことで一番驚いたのは本人であり、自身がやってきたことや、独自のテイストのリキュールを製造することに自信がついたと島村さん。

左は国産ピートで燻製にしたジュニパーベリーを使用したクラフトジン「翠藹~Sui-ai~wet Gin」

金賞を受賞したことで、問い合わせも増えました。しかし、島村さんは拡大するより、より美味しいリキュール作りに専念していきたいと話します。島村さんが一人で手がける「マルベリー&ホップ」の生産量は、一度の仕込みでわずか約200本。仕込みからボトル詰めまでに半月ほどを要する、丁寧な手仕事です。

販売は、八王子市内の一部酒販店やスーパー、さらにはコンビニといった、日常の中で気軽に手に取れる場所で行われ、手頃な価格で販売されていることも魅力の一つです。八王子市内のレストランやバーではこのリキュールやジンを使ったオリジナリティーあふれるカクテルドリンクが提供されています。

ラベルデザインも地元の高校生アーティストが手掛けたもの。日本遺産「桑都物語」のロゴ使用の認証も文化庁並びに八王子市から取得し、地域の思いを込めたアイテムとして、すでに八王子市のふるさと納税の返礼品としても認定されています。かつては盛んだった酒造りが時代とともに衰退していった近年。八王子の新たな地酒の一つとして、「手土産にも使っていただけるお酒になれば」と島村さんは語ります。

江戸時代後期、養蚕用の桑畑が広がり「桑都(そうと)」と呼ばれた八王子市で、八王子のシンボルツリーである「桑」の実「マルベリー」と、ビールの苦味の要となる「ホップ」を組み合わせた、まるで一杯のグラスの中で精巧に組み立てられたカクテルのような味わいのリキュールが、今、小さな波をたて、地域の飲食シーン、地域の活性に大きな波紋を広げようとしています。

次なるジンの開発も進んでいるとのこと。バーテンダー島村 悟さんが造る唯一無二の「クラフトリキュール」。ネットで買って自宅で楽しむこともできますが、このお酒を楽しむために、八王子に出かけてみてはいかがですか。販売店、取り扱い飲食店は、ホームページで紹介されています。

グルメライター 中村あきこ 

グルメライター/日本とフランスの料理学校でフランス料理を学び、帰国後、都内フレンチレストランでサーヴィスに従事。マネージャーやウエディングプランナーを経験。また、料理とワインのマリアージュの素晴らしさに心が奪われた事をきっかけに、JSA認定ソムリエ、シニアソムリエを取得。お店に立つ側と食べる側、両方の視点から感じたものを、素直な言葉で綴り、そのホスピタリティを伝えている。現在は知人の店でヘルプシェフとしてキッチンに立つことも。二児の母。長男の育児中の食の悩みから、幼児食インストラクターを取得。親子で楽しく囲める食卓も日々研究中。

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DATA

施設名 八王子craft liqueur(八王子クラフトリキュール)
住所八王子市万町99−8 富士コーポ101
TEL090-9246-3304
公式サイトhttps://www.hatiouji-craft-liqueur.com/
備考*この施設での販売はしていません。取扱店舗またはインターネットからの購入ください。

※最新の情報は公式サイトをご確認ください。



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