第20回【吉祥寺】目の前で「旬」を揚げるカウンター8席の美食空間「天ぷら むらやま」 | イマタマ

第20回【吉祥寺】目の前で「旬」を揚げるカウンター8席の美食空間「天ぷら むらやま」

2025/06/05

こんにちは、イマタマグルメ ライターの中村あきこです。衣のサクッとした歯応えと、ジュワッと広がる素材の旨みがシンプルに味わえる日本料理「天ぷら」は、寿司、蕎麦、鰻などと並んで国内だけでなく、海外からも注目される人気グルメの一つです。

「天ぷら」は、16世紀半ばにポルトガルから伝わった南蛮料理の一つとされています。これは現在のような繊細な天ぷらとは異なり、小麦粉と卵を使った厚めの衣で具材を揚げる料理で、現在も「長崎天ぷら」として地域に根付いています。これが全国へと広まり、各地で独自のスタイルへと発展していきます。

とくに江戸の町では、屋台で提供される「江戸前天ぷら」が庶民に親しまれていました。江戸湾で獲れた穴子や芝海老、こはだ、貝柱、するめなどの魚介を、焙煎胡麻油で香ばしく揚げたその味わいは、やがて武士や大名など上流階級にも受け入れられ、明治時代以降の天ぷら専門店の誕生にもつながりました。

一方、関西では精進料理のような野菜を中心に、綿実油などを使った軽やかな風味の天ぷらが発展していましたが、大正12年の関東大震災をきっかけに職人が西へ移り、関東と関西の技術が融合。昭和以降には、一品ずつ揚げたてを供する、現在のような洗練されたスタイルの天ぷら専門店が確立されていきました。

さて今回は、2024年11月にニューオープンした吉祥寺の天ぷらの専門店「天ぷら むらやま」さんをご紹介します。東京都心のハイクラスのホテルで会席料理を一から学び、丸の内や銀座の天ぷらの名店で修業された店主が、厳選された食材と磨かれた技術で贅沢なおもてなしを提供します。対面式のお店ならではの、料理人との程よい距離感にも注目です。

昼夜ともに、お席に空きがあれば予約なしでも利用可能

活けの車海老の天ぷらに旬の野菜などを
贅沢に楽しむ「お任せコース」

2024年11月にオープンした「天ぷら むらやま」は、比較的カジュアルな飲食店が多い吉祥寺では珍しい、落ち着いた大人の雰囲気の中で、目の前で揚げたての上質な天ぷらがいただけるお店です。価格はやや高めですが、逆に都心へ行かずともそのようなクオリティーの高い職人の技を愉しめるということで、近隣に住む食に関心の高いお客様を中心に、注目を集め始めています。場所はJR中央線 吉祥寺駅から北口から徒歩約8分。吉祥寺エクセルホテル東急の裏手、西一条通り沿いの「ルミナス吉祥寺」というビルの1階にあり、和モダンな門構えが印象的です。

表の扉を開けると、上がり框(かまち)になっていて、その正面にある格子戸をそっと開くと、「いらっしゃいませ」と、カウンター越しに店主の村山貴宏(むらやま たかひろ)さんが迎えてくださいます。席に着いて温かいおしぼりを受け取り、ほっと一息。落ち着いて店内を見渡すと、清潔感ある上質な木を基調とした和の空間で、自然と背筋が伸びます。和の趣を大切にした店内はカウンター8席のみで、落ち着いた大人の雰囲気が漂っています。

店主の村山 貴宏 料理長

今回はランチタイムに訪問し、事前に予約をしておいた「お昼のお任せ」(7,700円税込)というコースをいただきました。こちらは旬の魚介や野菜を堪能できる全8種の天ぷらのコースで、最後にかき揚げとご飯、味噌汁、デザートが愉しめます。ゆっくりと楽しめるコースなので、お酒と一緒に楽しむことに。「天ぷらむらやま」が厳選するドリンクメニューから、和歌山県の平和酒造「紀土 KID 純米大吟醸」(1合 1650円 税込)をお料理に合わせてみることにしました。

日本酒はほかにも数種ありましたが、選んだものは、お米の旨みや甘みを感じられるまろやかなタイプなので天ぷらとの相性も良さそうです。またフランスを中心に数種取り揃えられたワインもあり、天ぷらとワインのマリアージュも楽しめそうです。「天ぷらはもともとヨーロッパから伝来したものなので、きっと相性が良いのではと思いワインもご用意しております」と、ワインは勉強中だという村山さんもその相性に注目をしているのだそう。

数ある中から私が選んだのは、コロンとしたかたちの厚口の吹きガラスのお猪口

さっそく日本酒を注文し、一緒に様々な色や形や素材違いの好みのお猪口から一つを選びます。最近和食店で時折見かけるこのようなスタイルは、自分好みのものが選べる特別感があって嬉しいおもてなしです。もちろん直感で好きな色味やデザインを選ぶのも楽しいですが、実はお猪口の形状で選ぶと、お酒の味わいがほんの少し違ってきます。例えばキリッと辛口がお好みならシャープな形状の「うすはりタイプ」、また反対にふっくらと丸みのある味がお好みなら「厚口タイプ」のものを選んでみて下さい。日本酒がさらに美味しく楽しめるちょっとした豆知識です。

「お任せコース」は付き出しの「揚げ出汁豆腐」から始まります

いよいよお食事スタート。付き出の「揚げ出汁豆腐」をいただきます。上から琥珀色の餡がとろりとかかっていて、揚がったばかりのサクッとした衣と餡との融合が楽しみです。スプーンで崩しながら一口いただくと、とってもクリーミーでもっちりとした食感に驚きます、想像していた揚げ出し豆腐とは違った印象でした。

実はこちら「峯岡豆腐(みねおかどうふ)」という千葉県南房総に伝わる伝統的な和風デザートをアレンジしたもので、牛乳や生クリームを使った胡麻豆腐のようなものに衣を付けて揚げています。通常は葛粉を使うところを、タピオカ粉を使って練るので、まるでお餅のような食感です。お出汁の効いた餡との相性は抜群で、時々山葵を溶かしながらいただきます。そこへほんのり甘みを感じる純米吟醸を流し込むと、美味しさも倍増し、これからいただく天ぷらへの期待も膨らみます。

天ぷらの味を引き立てる塩は2種類「自家製トマト塩」と「青ヶ島のひんぎゃの塩」

天ぷらが提供される直前に、大根おろし・天つゆ・すだちが準備されますが、シンプルな天ぷらの味わいを引き立てるのに欠かせないのが「塩」の存在です。こちらのお店では、東京都 青ヶ島で作られる「ひんぎゃの塩」という、粒の粗い海水塩が卓上に用意されています。

この塩は一般にはあまり流通していない珍しいもので、「ひんぎゃ」と呼ばれる地熱の噴気口の近くで採取された海底湧水を原料としていて、通常の海水よりもミネラル分が豊富だそうです。まろやかで旨みがあり、苦味のないクリーンな塩味が感じられます。

車海老は、味が良いことで知られる熊本県・天草産のものを使用。豊洲市場から信頼できる業者を通じて、活きたまま仕入れているのだそうです

さらに「トマト塩」という個性的な塩も用意されています。これは村山さんのオリジナルで、塩水を蒸発させながらトマトのエキスを染み込ませた、手間暇かけたもので、舌にのせると爽やかな香りとまろやかな味わいが広がり、いろいろな食材と合わせてみたくなります。どちらの塩も他ではなかなか味わえないもので、「ここでしか出会えない味を楽しんでほしい」という村山さんの思いが込められた、存在感のある名脇役です。

「車海老は塩でお召し上がりください」と最初に供されたのは車海老の天ぷらです。上品な「薄衣」に包まれた朱色が美しくて思わず見惚れてしまいます。先に提供される頭と足の部分はカリカリっと香ばしく揚げられているので、塩のみでいただきます。後に続く胴から尻尾の身は薄衣のサクッとした食感と、ぷりっと弾ける繊細な味わいで食べ切るのが惜しいと感じてしまうほど。また「ひんぎゃの塩」のミネラル感と相性がとても良く、旨みがさらにアップします。二口目は塩とすだちでいただきました。

「山菜の女王」コシアブラの天ぷら。香りの良い山菜はもちろん塩でいただきます

さらっと軽く繊細な天ぷらの
秘密は揚げ油にあり

天ぷらというと「油っこいもの」や「胃にもたれる」といったイメージを持たれることがありますが、実はその原因の一つに揚げ油の質と鮮度があります。「うちは昼夜の営業ごとに毎回新しい油に取り替えています」と村山さん。油が汚れてしまうと酸化により、脂っこさや胃もたれを感じます。天ぷらに使われる食材は淡白で繊細な味わいのものも多く、その味わいを損なわないためにも、質の良い油で揚げることも大切なのだそうです。こちらでは「太白胡麻油」という胡麻油と「綿実油」を独自のブレンドで使用しています。

ガラス張りのコンロカバーからは揚げている様子がよく見え、食欲をそそります

「太白胡麻油」というのは、胡麻を焙煎せずに生搾りしたもので、色は無色透明。香りも色も焙煎のものとは全く違います。酸化しにくく、天ぷら油やサラダのドレッシングを作る時などに最適で、健康志向の人や料理人などの間ではすでに多く知られています。また「綿実油」も高品質で高温での揚げ物がカラッと仕上がり酸化にも強い油です。

温度管理も美味しさの秘訣で、揚げ鍋に目を向けると、よく磨かれた銅製の鍋を使用していて、そこからカラカラと心地よく油のはぜる音が聞こえます。「天ぷらというのは脱水作業がメインなんです」と村山さんは作業をしながら説明してくださいます。衣に火を通しつつも、素材の水分が出たら油がそこに吸い込まれないうちに仕上げることが大切なので、熱伝導の良い銅鍋を使い、素材ごとの繊細な温度調整を行なっているのだそうです。

美しい断面の「生雲丹の大葉包み」。最初は塩を少し付け、次はすだちを軽く絞っていただきます

そんな説明の意味をその場で体験できたのが、この「生雲丹の大葉包み」です。衣はサクッとしっかり揚がっているにも関わらず、中は完全に生の状態で、ほんのり温まったトロトロの生雲丹の旨さが口中に広がります。

厳選された素材の味を生かすのは、料理人の腕次第。というシンプルながらも奥深い天ぷら。そんな難しい料理の一つである「天ぷら」を見事に生み出す店主の村山貴宏さんのここまでの道のりはなんと20年だったそうです。

頭から尻尾まで丸ごといただける8センチほどのサイズの「稚鮎の天ぷら」。肝のある頭の部分は塩で、残りは天汁でいただく

村山さんは新潟県の出身で、ご両親が飲食業界に関わりがあったこともあり、調理師学校へ進学。卒業後に上京し、都心のハイクラスのホテルの和食店に就職します。その後12年間は会席料理に携わり、お客様の目の前で調理をする対面式のカウンターでの仕事に楽しさを感じ、ちょうど「天ぷら」というジャンルでそれを体験したのをきっかけに、この道を選択したのだそうです。

シャキッした歯応えが魅力の新潟県南魚沼市のブランド舞茸「石坂舞茸の天ぷら」

その後は「天ぷらの専門店」で8年修行し2024年11月に独立。修業先の、丸の内「お座敷天ぷら 天政」や銀座「天ぷら おのでら」など名店での経験が今の村山さんのベースになっているそうで、そこで出会ったやり方や、美味しく信頼のおける食材は今も使い続けているそうです。

「初めは右も左も分からないので、修業先のお店のやり方が当たり前だと思ってやっていました。なので私は、出会ったお店が良かったのだと思います」と村山さんは謙虚に語ります。都心の名店の味がここ多摩地域でも味わうことができるのは嬉しいですね。

付き出しから始まり、薄衣に包まれた上品な魚介の天ぷら4品と野菜の天ぷら4品を食べ終え、締めは、桜海老と春菊、蓮根、玉ねぎのかき揚げがのった「かき揚げ丼」をいただきました。たれがしっかりと絡まった具沢山のかき揚げはご飯との相性も抜群でさらっと頂けてしまいます。デザートのローストピスタチオのアイスまでしっかりいただけ大満足でした。

流通が少なく珍しい「姫小鯛(ひめこだい)の天ぷら」ふっくらとした身の美味さに感動です
かき揚げ丼に使う器は鮮やかな絵付けが特徴の九谷焼の抹茶碗を使い、型にはまらないアイデアで演出

今回はランチの紹介でしたが、ディナータイムはレギュラーコースの「雪つばき」(11,000円)や「夜のお任せ」(16,500円 税込)といったコースがあります。夜は毛蟹の殻に身をぎっしり詰め込んで揚げる「毛蟹の天ぷら」などのスペシャリテもあるそうなので、予約の際には内容をご確認ください。

また肩肘張らずに堪能できる「平日限定コース」(3,300円 税込)という月・火・水曜日のランチタイム限定のコースもあるので、とっておきの日の予約の前に一度訪れてみるのもおすすめです。都心へでなくとも味わえる、普段使いとは一線を引いた上質なひとときを過ごすなら、ぜひ「天ぷら むらやま」へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

グルメライター 中村あきこ 

グルメライター/日本とフランスの料理学校でフランス料理を学び、帰国後、都内フレンチレストランでサーヴィスに従事。マネージャーやウエディングプランナーを経験。また、料理とワインのマリアージュの素晴らしさに心が奪われた事をきっかけに、JSA認定ソムリエ、シニアソムリエを取得。お店に立つ側と食べる側、両方の視点から感じたものを、素直な言葉で綴り、そのホスピタリティを伝えている。現在は知人の店でヘルプシェフとしてキッチンに立つことも。二児の母。長男の育児中の食の悩みから、幼児食インストラクターを取得。親子で楽しく囲める食卓も日々研究中。

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DATA

施設名 天ぷら むらやま
住所東京都武蔵野市吉祥寺本町2‐8‐9 ルミナス吉祥寺1階‐B
TEL0422−27−6500
営業時間月・火・水・日
11:30 - 14:30
(L.O. 料理13:30 ドリンク14:00)
17:30 - 22:30
(L.O. 料理21:00 ドリンク21:30)
     
金・土
17:30 - 22:30
(L.O. 料理21:00 ドリンク21:30)
定休日木曜日
公式サイトhttps://tempura-murayama.com/index.html

※最新の情報は公式サイトをご確認ください。



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