〜イマタマグルメ特別編〜【小金井市】学生と地域が「食」を通じてつながる「成長していくレストランとパティスリー」 | イマタマ

〜イマタマグルメ特別編〜【小金井市】学生と地域が「食」を通じてつながる「成長していくレストランとパティスリー」

2026/10/15

「Kitchen Lab.PRISM(キッチンラボ・プリズム)」
「ATELIER TSUJI TOKYO(アトリエ辻󠄀東京)」

多摩エリアの食を綴る「イマタマグルメ」ライターの中村あきこです。

美味しい料理と温かなおもてなしで「食」の世界を支える「料理人」。そのスタート地点は皆それぞれ違いますが、一つの選択肢に「調理師学校」という場所があります。もしかしたら、あのシェフや、このシェフもかつては調理師学校で学ぶ「料理人の卵」だったかもしれません。

今回は、イマタマグルメ特別編として、私たちが気軽に訪れ、触れ合うことができる「食」の教育現場を取材しました。訪ねたのは、調理師学校の中にある2つの「店」。内装にもこだわった、とてもお洒落な店舗型の実習室で、「食」のプロを目指す学生たちが、実際にお客様を迎え、料理やお菓子を提供しています。

それが小金井市にある「辻󠄀調理師専門学校 東京」の校内に設けられた、「Kitchen Lab.PRISM(キッチンラボ・プリズム)」と、「ATELIER TSUJI TOKYO(アトリエ辻󠄀東京)」です。学生たちが一般のお客様を迎え、料理やお菓子を提供・販売する「実践実習」が、授業の一環として設けられ、毎年春から約10ヶ月にわたって営業します。

「Kitchen Lab.PRISM(キッチンラボ・プリズム)」は予約制で、一般の方でも利用することができ、お菓子とパンを販売する「ATELIER TSUJI TOKYO(アトリエ辻󠄀東京)」も、販売時間内であれば誰でも購入することができます。1カ月前から受け付けるネット予約は早々に満席となり、アトリエもオープン前から列ができることもあります。

「食」を学ぶ環境を身近に感じられる場所

「辻󠄀調理師専門学校 東京」があるのは小金井市貫井北町。東京学芸大学のキャンパスに隣接する緑豊かな郊外にあります。JR国分寺駅や西武線小平駅から出ている「銀河鉄道バス」を利用すれば学校の正門前のバス停にアクセスできるので便利です。

東京学芸大学に隣接する「辻󠄀調理師専門学校東京」。両校は「食と環境」をテーマに連携しています

スタイリッシュで真新しい校舎。その正面玄関から一歩足を踏み入れると、学校とは思えないような落ち着きのあるエントランスが出迎えてくれます。入ってまず一番最初に見えるのが、ゆったりとくつろげるライブラリースペースです。

吹き抜けの高い窓から自然光が差し込む、上質なラウンジのような空間。ソファでゆったりとくつろぎながら、料理の専門書や、食にまつわる様々な本を閲覧することができます。西洋料理や、日本料理だけでなく、世界各国の料理や製菓のレシピ本、ワインの専門書、発酵食品に関する本など、さまざまな「食」に関する書籍がおよそ5000冊収蔵されています。

ここは、学生たちが日々の学びの中で調べ物をするだけでなく、地域の人も気軽に利用できる「食」専門のライブラリーです。料理の学校というと、厨房で技術を学ぶ姿を思い浮かべるかもしれませんが、ここで学ぶのは技術だけではありません。学校を地域にも開き、「食」について知り、調べ、考える。そんな時間を過ごせる環境が、学生たちのすぐそばに用意されています。

館内のライブラリーに収まりきらない書籍を保管する書庫もあり、合わせると約2万冊に上るそう。「食」の専門書が集まる、充実したライブラリーです

食のプロを目指す学生が真剣勝負で生み出す一皿

学生たちが行き交うこの校舎の1階に、レストラン「Kitchen Lab.PRISM(キッチンラボ・プリズム)」はあります。ここは「実習室」という位置付けですが、その空間は驚くほど本格的なレストラン。店内に入ると「いらっしゃいませ」と、真っ白なワイシャツとパンツにエプロンを身につけたホール担当の学生が、席へと案内してくれます。

広いオープンキッチンを囲むように、カウンター席とテーブル席が、約40席用意されています。織り目正しく畳まれたナプキンと、よく磨かれたカトラリーやグラスが並び、これから始まる営業への緊張感が漂いますオープンキッチンでは、コックコートに身を包んだ調理担当の学生たちが、調理指導の先生とともに、オーダーが入る前の最終チェック。こちらからもお客様をお迎えする前の張りつめた空気が伝わってきます。

お客様の来店とともに、徐々に活気づく店内。持ち場の仕事に向き合う学生たちは真剣そのものです

このレストランで調理とサービスを担当するのは「調理応用技術マネジメント学科」の2年生。進級したての4月から、この舞台に立つためにシミュレーションを重ね、5月末に初めての実践実習を経験します。

今回イマタマグルメでは、そんな学生たちが少しずつ経験を重ね始めた7月にPRISMを訪れ、その現場を取材させてもらいました。いただいたのは、第2回の実践実習で提供されたお料理です。

メニューは2種類。胡麻豆腐と鯛の卯の花和えの小鉢に、メインは鯛茶漬けという本格的な和定食。もう一つは、採れたての地元野菜を使ったサラダをオードヴルに、メインは愛媛県産鯛のヴァプール(蒸し料理)に、フレッシュトマトソースと雑穀米を添えた、彩り豊かな一皿です。

ホール担当の学生はお客様が気持ちよく食事ができるよう、入念にテーブルセッティングの確認を行います
新鮮な地元野菜をふんだんに使った前菜は、野菜ごとに違う食感が楽しい一皿。一種類ずつ丁寧に調理されています。パリッと香ばしく焼き上げられたバゲットとともにいただきます

キッチンでは学生たちが、その場の状況に応じて判断しながら料理を仕上げていきます。それを先生がチェックすると、サービス担当の学生がお客様のもとへ運び、丁寧に料理について説明をします。

時には先生が、学生とお客様の間に自然に入り「学生たちにたくさん質問してください」声をかけることも。その一言をきっかけに、互いに緊張がほぐれ、お客様との距離も縮まり、会話が生まれます。

学生たちはまだまだ学びの途中です。サービスが得意な学生もいればそうでない学生もいます。そんな学生たちを見守りながら、必要な時はそっと助け船を出す先生方の存在も、このレストランならではの風景です。

熱々のうちにお客様に提供できるようチームで手際よく盛り付けていきます

学生たちが一皿ずつ丁寧に仕上げた料理は、レストランの一皿としてきちんと成立していました。しかし、ここは集客を目的として運営する「学生レストラン」ではありません。「この実践実習は、あくまでも授業の一部なんです」と先生は話します。

包丁を初めて握るところから始まる調理師学校で、道具や食材の扱いを学び、知識と技術を身につけていく。そんな学びの先にあるのは、「料理をつくる力」だけではなく、自分で考え、判断し、行動する力なのだそうです。

お客様を迎える緊張感の中で、一つひとつの仕事に向き合う。そんな学生たちの真剣な姿を間近で見ながら食事を楽しめることも「Kitchen Lab.PRISM」ならではの魅力です。実際、学生たちはこの営業日を迎えるまでに、さまざまな準備を重ねています。

テーブル席はオープンキッチンがよく見えるよう配置され、学生たちが料理を仕上げていく様子を目の前で見ることができます。

まずは、作る料理のレシピを理解し、素材の火入れや盛り付け、味付けを研究します。そして同じメニューを自分たちで試作し、実際に食べてみてその反省点を考え、フィードバックを行います。さらに、別のクラスの営業日に提供される同じ料理を、お客さん役となって実際に食べ、その経験を踏まえて、いよいよ自分たちのクラスの番を迎えるのです。このように試作と検証、そして実践というサイクルを積み重ね、一つ一つの経験を次へと繋げていきます。

卒業まで、回を重ねるごとに難易度も上がり、品数があるコースや、和洋折衷のコースなど、複雑な内容の料理に挑戦していくのだそうです。その経験を重ね、卒業前には学生たちがオリジナル料理を考え、自分たちでコースを組み立てる、卒業制作とも言えるコース料理を提供します。

そして、この学校にはもう一つ、学生たちと地域をつなぐ「成長していく店」があります。

もう一つの実践の現場「ATELIER TSUJI TOKYO」

それがショップコンセプト実習室「ATELIER TSUJI TOKYO(アトリエ辻󠄀東京)」です。こちらでは「製菓応用技術マネジメント学科」2年生の学生たちが、自分たちでつくったお菓子やパンを、お客様に販売しています。

店内は、まるで本物のパティスリーやベーカリーのような雰囲気。ドアを開けると、パンのこうばしい香りとお菓子の甘い香りが広がり、思わず深く息を吸い込んでしまいます。

窓際に沿って設けられた飾り棚には、クルミとレーズン、クランベリーとホワイトチョコなどのフィリングの異なるライ麦パンや、ベーコンエピなどのハード系のパン。さらにクロワッサン・オ・ザマンドや、洋梨やチェリーなどのフルーツをのせた、デニッシュなどの甘い系のパンに加え、マドレーヌやクッキーなどの焼き菓子も並びます。

どれも美味しそうで迷ってしまいますが、そんな時はフロアに立っている学生が、商品の特徴を丁寧に説明してくれます。

ここでは、製造だけでなく、品出しやお客様への案内、レジまで、全てを学生たちが担います

店の奥にあるショーケースには、フランス菓子を中心とした10種類のプチガトーが並びます。ムースやタルト、モンブラン、プリン、ロールケーキなどが彩りよく並び、その横には、学生が各々のデザインでデコレーションを手がけた、ホールケーキも。

地域の農家との連携もあり、旬の時期には、いちごやブルーベリー、キウイ、ルバーブなど、食べ頃の小金井市産の素材を取り入れることもあるそうです。「学生に本物を経験させたい」というこの学校の精神から、材料はきちんと品質管理されたものが使用されています。

焼き菓子は一つ150円くらいから。パンやプチガトーは300円〜600円ほどと、授業の一環で販売されているということもあり、気軽に購入しやすい値段設定になっています。しかし実際に購入したライ麦パンやデニッシュも、噛むほどに小麦の風味が感じられ、そのおいしさに驚きました。

見た目の美しさも、商品の売れ行きを左右する大切な要素です

このショップコンセプト実習室では、学生が全ての商品を経験できるよう、各自が割り当てられた商品を、仕込みから仕上げまで担当します。しかもお店はお昼の12時にオープンするので、その時間に間に合うように仕上げなければいけません。

中には作業の順番が分からず、時間に間に合わないこともあるそうで、そんな日はその商品が店頭に並ばないことも。しかし、学生たちは、そうした失敗から事前に予習をすることの大切さを経験します。「販売する以上は多少厳しいことも言います」と先生は話します。

「失敗してしまったものや、仕上げが綺麗ではないと判断したものは、店頭に並べません。もちろんその商品は無駄にするわけではなく、学生たちが持ち帰り、自分たちで食べます」と先生。だからこそ、自分が作ったお菓子が早く売れた時や、全部売れた時の喜びが励みになり、プロの仕事の大切さを学ぶのだと感じました。

またここでは「商品開発」や「実践栄養学」という授業を通じて、学生たちが企画した商品も販売されます。例えば、ごぼうを使ったフロランタンや、ビーツを使ったブールドネージュなど、野菜が苦手な子どもや、栄養面にも目を向けるという観点で、野菜を使ったお菓子の開発もするそうです。ただおいしいお菓子をつくるだけではなく、なぜつくるのか、誰に届けたいのかまで考え、より深く突き詰めていく。この場所もまた、学生とともに成長していくパティスリーなのです。

パンやお菓子はお一人様あたりの購入に上限があります。また内容は学生の学びとともに変化します

食を学ぶことは、土地を知ること

このように、「食」を通じて地域と関わる、開かれた教育現場である同校は、1960年創立の大阪にある「辻󠄀調理師専門学校」を本校とする辻󠄀調グループの学校です。東京ではこれまで国立市の「エコール辻󠄀東京」で教育を行ってきましたが、2024年4月、現在の小金井市に、校名も新たに「辻󠄀調理師専門学校 東京」として開校しました。

学校設立場所を探す中で出会ったのが、東京学芸大学に隣接する、現在の場所だったそうです。同大学が力を入れている「環境教育」と、辻󠄀調理師専門学校が目指す「おいしいものをつくるだけではない。食の周辺までを含めた学び」という方向性が重なったことが、この場所を選んだ最大の理由になったそうです。

実際、行ってみると理解できますが、「料理」を学ぶ場所のすぐ隣に、「植物」や「環境」について学ぶことができるこの場所は、料理を学ぶ学生にとって、またのちの料理人としての人生にとって良い環境といえるかもしれません。

東京学芸大学にはさまざまな植物を教材として育てる「教材園」があり、すでに東京学芸大学の学生や先生とともに、「食」や「農」、「環境」について考える「くいしんぼうラボ」などの課外活動がはじまっています。

初夏のPRISMではこんなカラフルな野菜が農家から届いていました

さらに、近隣の農家や生産者とのつながりも、この土地で学ぶ大きな意味の一つです。調理師学校では、レシピに合わせた材料が市場を通して準備されます。また学習に差が生まれないようにサイズの揃った材料を用意する必要があります。

一方、地元農家の野菜には旬があり、食べごろのタイミングで収穫されるので、状態も市場を通したものとは異なります。だからこそ、届いた素材を見て「この野菜をどう料理しようか」と考える。素材の状態を見ながら、調理の仕方を判断する。さらにその先に、それを味わう「お客さま」もいる。

この実践実習の舞台で学生たちが経験しているのは、料理やお菓子を「つくる」ことだけでなく、「つくる力」と「考える力」を身につけていくこと。お客さまの声を聞き、考え、また次の一皿、一品へとつなげていくこと。こうして未来の料理人たちは、この小金井の地で育まれているのです。

授業の合間にはこのテラスで学生たちが料理談義に花を咲かせるのでしょうか。食について語り合う時間も学びのひと時です

今回の取材を通して感じたのは、「食」を学ぶことは、料理のレシピや技術だけを学ぶことではなく、その周りを取り巻く環境も一緒に学ぶということが、大切だということでした。

これから学生たちがどんな料理人やパティシエになっていくのか。美味しいもの好きとしては気になるところ。その成長を、地域の一員として見守れることも、この場所の面白さなのかもしれません。予約制ですがぜひ「食事」と「お菓子やパンの購入」にでかけてみてください。

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グルメライター 中村あきこ 

グルメライター/日本とフランスの料理学校でフランス料理を学び、帰国後、都内フレンチレストランでサーヴィスに従事。マネージャーやウエディングプランナーを経験。また、料理とワインのマリアージュの素晴らしさに心が奪われた事をきっかけに、JSA認定ソムリエ、シニアソムリエを取得。お店に立つ側と食べる側、両方の視点から感じたものを、素直な言葉で綴り、そのホスピタリティを伝えている。現在は知人の店でヘルプシェフとしてキッチンに立つことも。二児の母。長男の育児中の食の悩みから、幼児食インストラクターを取得。親子で楽しく囲める食卓も日々研究中。

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DATA

施設名 辻󠄀調理師専門学校 東京
住所〒184-0015 東京都小金井市貫井北町4-1-1
TEL042-401-0403(代表)
公式サイトhttps://www.tsuji.ac.jp/
備考Kitchen Lab. PRISM(キッチンラボ・プリズム)
https://www.tsuji.ac.jp/college/chorishi_tokyo/prism/
営業時間:12:00〜13:30
事前のご予約は、テーブルチェック予約サイトから。来店日の1か月前の正午から前日の14時まで可能です。

ATELIER TSUJI TOKYO(アトリエ辻󠄀 東京)
www.tsuji.ac.jp/college/chorishi_tokyo/atelier
営業時間:12:00~15:30(製品がなくなり次第終了とさせていただきます)

※最新の情報は公式サイトをご確認ください。

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