多摩エリアの食を綴る「イマタマグルメ」ライターの中村あきこです。東京・多摩地域には、都心からほど近い距離にありながら、自然豊かな里山の風景を身近に体験できる場所があります。
その一つ、東大和市の北側に広がる狭山丘陵の雑木林の中にひっそりと佇み、創業当時から続く「いろり」を囲んで食事を楽しむスタイルで、四季折々の景色が堪能できる「貯水池 鳥山」をご存知でしょうか。
創業は東京オリンピックが開催された昭和39年。日本が高度経済成長で活気にあふれ、当時の大和町(現在の東大和市)でも市街地の整備が進んでいました。そんな中、誕生した同店は、野鳥や川魚などのいろり焼きでもてなす料亭として、周辺の街に住む人々や、地元に長く住む人々の宴会や寄り合いなどで集う場所として長く親しまれてきました。
現在はその約60年の歴史を受け継ぎながらも、時代に合わせた新たな魅力を加え、進化を続けています。東京に残る自然豊かな里山の風景と、いろりを囲む非日常の体験を求め、遠方から多くの人がこの地を訪れています。今回は、そんな里山の趣と人が集う文化が息づく「貯水池 鳥山」の魅力をご紹介させていただきます。

この時間を過ごすために訪れたくなる、里山の一軒
東大和市・蔵敷にある「貯水池 鳥山」は、最寄りの駅から歩いてすぐ行ける場所ではありません。お店のホームページには多摩モノレール「上北台駅」または「西武球場前駅」から徒歩約25分、タクシーで約7分とあり、東大和市の駅からは車で約15分ほどの距離です。
心地よい季節であれば、「西武球場前駅」から多摩湖にかかる橋を渡り、狭山丘陵の森を抜けながら向かう散策コースもおすすめです。そのほんの少しの不便さや遠回りが、これから始まる時間への期待をゆっくりと膨らませてくれます。

この一帯は、狭山丘陵の貴重な自然環境を守るため、市街化を抑える市街化調整区域に指定されています。お店に近づくにつれ徐々に民家や商店が少なくなっていきます。雑木林に囲まれた山道を進んでいると、「この先で本当に合っているのだろうか」と、ほんの少し不安を覚えてしまいますが、やがて目の前に「貯水池 鳥山」の看板が現れました。入り口へと進んでいくと、そこはまるで隠れ里のような情緒ある風景が広がっていました。
背の高い木々に囲まれた小径を歩き、鳥や風の音に耳を傾けながら進んでいくと、日常の慌ただしさが少しずつ遠ざかっていくように感じます。小径の先にはレトロな雑貨が売られる小さな小屋や、東大和を拠点に活動する現代美術家・池平撤兵さんのアトリエ美術館などがあります。
手ぶらでBBQが楽しめるグランピング施設や、「貯水池鳥山」直営の「森の茶屋」というカフェも併設され、いろり料理だけでなく、自然の中で一日過ごせる魅力ある場所となっています。


受付を済ませた後、案内していただいたのは「しらさぎ」という4名まで利用できる離れの個室。いろりを囲む掘りごたつに腰を下ろし、足を伸ばして目の前の窓へ目を向けると、窓いっぱいに木々の緑が広がります。その清々しい風景に、ここが東京であることを一瞬忘れてしまいました。
席に着きお料理を注文すると、ほどなくして敷地内にある炭焼き小屋から真っ赤に焼けた炭が運ばれてきました。スタッフが手際よく並べていく様子を眺めているだけで心が落ち着き、お腹も空いてきます。
メニューはコースから単品、定食と幅広く用意されています。中でも店主が厳選した山と海の幸を、自分で炭火で焼きながら味わう「おまかせ囲炉裏コースA・B・C」(5,500円〜税込)は人気のメニューです。今回私は、串8品にお通し、お刺身、サラダ、麦とろご飯または田舎風うどん、なめこ汁、デザートが付く「おまかせ囲炉裏コースB」を選びました。

骨付きの大山鶏やニジマス、旬の野菜などが、ざるいっぱいに美しく盛られて運ばれてくると、その迫力に思わずカメラを構えてしまいます。好みの串を自分でいろりに並べ、焼き上がるのを待ちながらサラダやお刺身をいただきます。塩加減も焼き加減も思いのまま。自分のペースで味わえるのが、この店ならではの楽しみ方です。
ニジマスは、背中側には軽く、尾びれにはしっかりと塩を振るのが、美味しく焼き上げるコツ。こんがり焼き色が付くまでは触らずじっくり待ち、パリッと焼き上がった香ばしい皮目とふっくら繊細な白身を熱々でいただける贅沢。肉厚な大山鶏は、あえて骨付きのまま串に刺してあり、旨みを逃すことなく焼くことができるよう工夫されています。
初めはタレをつけずに満遍なく火を通し、仕上げにタレを絡めてちょっと焦げるくらいまで焼き上げます。骨に気をつけながら豪快にかぶりつくと、香ばしくジューシーな鶏の旨みが口いっぱいに広がります。安定した火加減のおかげで、初めてでも上手に焼くことができました。さらにお部屋には「美味しく焼くコツ」が書かれた案内書が用意されているので安心です。
自分の手で一品ずつ丁寧に仕上げる楽しさは日常ではなかなか味わえない体験。〆には佐渡島産 コシヒカリの麦とろご飯(または田舎うどん)をいただき、最後にデザートをいただきながら、まったりといろりの余韻を楽しみ、心もお腹も大満足のひとときを過ごすことができました。

今回いただいたコース料理のほかにも、和牛や岩魚などの焼き串を贅沢に楽しめる各種盛り合わせや、紅茶鴨を使った「鴨のお狩場焼」という鉄鍋料理もあります。また創業当時から親しまれてきた、鶏油100%で素揚げした名物「鳥山から揚げ」も人気の逸品で、この店を代表するロングセラーとして多くの人に愛され、お土産としても人気があります。
さらには、地養鶏のから揚げをメインに、お刺身、サラダ、ご飯、味噌汁などが付く御膳やリーズナブルな定日限定ランチも用意され、人数やシーンに合わせて選べるメニューが充実しています。
三代目店主が守るおいしさへのこだわり
見た目も華やかな食材はもちろんのことですが、実は目に見えない部分にも店主のこだわりが詰まっています。麦ご飯や、なめこ汁の出汁に使う水は、2週間に1度、車で2時間半かけて秩父の「毘沙門水」まで自ら水を汲みに行っています。
毘沙門水は「平成の名水百選」に選定されている、カルシウムやミネラルを豊富に含む天然水です。「以前はもっと近い場所のものを使っていましたが水量が減少してしまい、代わりの水を探していたところ訪れたその場所で一口飲んで、衝撃を受けるほど美味しかったんです」と話すのは、三代目の店主の小嶋一晃(こじま かずあき)さん。
手間を惜しまず汲みに行く天然水で炊きあげるのは、新潟県 佐渡島産の低農薬のコシヒカリ。一粒一粒がふっくらと炊き上がった麦ご飯は、噛むほどに甘みを感じ、水へこだわりがこうした美味しさにつながることを納得します。
また、素材そのものの味わいを生かす「いろり料理」だからこそ、野菜選びにもこだわっています。旬の野菜は東大和市「橋本農園」の採れたてのものを使用。特に夏場は甘味たっぷりのとうもろこしが人気です。
炭火で香ばしく焼き上げるとうもろこし串の美味しさに、お客様からは「あのとうもろこしはどこのですか?」と尋ねられることも多いそうです。「東大和市の野菜です」と自信を持って答えていますと小嶋さん。「東大和市は台風など天候の被害が少なく、安定して美味しい野菜が採れるんですよ」と、その魅力を教えてくださいました。料理を通して地元の食材を発信することも、「貯水池鳥山」の大切な役割の一つとなっているのです。

自然の中で「人が集い、食を囲む」空間がさらに進化
「貯水池 鳥山」の始まりは、野鳥料理を提供する「鳥山形式」発祥の八王子市長沼にある「鎌田鳥山」を訪れたことがきっかけだったそうです。いろりを囲んで若鳥や野鳥の串焼きを、自分で焼いて楽しむスタイルに感銘を受け、狭山丘陵にある地元でもこれならできるのではないかと考え開業されたのだそうです。
それから60年。伝統を守りながら、さらなる新しい価値も生み出し進化しているのが、三代目の「貯水池 鳥山」です。
「お料理が美味しいのは大前提ですが、その先にある、この自然やこの心地よさを(思い出として)持ち帰っていただきたいんです」と小嶋さんは語ります。
進化の大きなきっかけとなったのは、やはりコロナ禍だったそうです。「コロナ禍では宴会の需要が激減してしまい、これまで当たり前だった営業スタイルを続けることは難しくなってしまいました。マイクロバスの送迎も今は運行していません」と小嶋さん。
そこで小嶋さんは、宴会用の大広間を「オープンアトリエ」へと改装。市内在住の現代美術家の池平撤兵さんの活動拠点として生まれ変わらせました。2025年には正式にアトリエ美術館としてグランドオープン。この施設は今、この場所になくてはならない文化的な役割をもたらしています。
自然豊かな環境を生かし、手ぶらでグランピングを楽しめるBBQ施設や、カフェ「森の茶屋」なども開設。自然やアートと共に過ごせる食の空間へと、その魅力を広げています。また、全室離れのプライベートな個室という点も、コロナ禍以降その価値が改めて見直され、「都会を離れ、自然の中でゆっくり過ごしたい」という人々に支持される、この店ならではの強みとなっています。

自然の中の趣ある離れの個室でいろりを囲み、厳選された食材を炭火で焼き上げるひととき。創業当時から受け継がれてきた、自然の中で「人が集い、食を囲む」という豊かな時間がここにはあります。そこに、自然の中で「滞在する楽しみ」を加えたことで、非日常的な空間でゆっくり食事を楽しみたいお客様が、多方面から訪れるようになり、外国人旅行者の利用も増えました。
「まだまだやりたいことはたくさんあります。一生かかってもやりきれないくらいですね」と笑う小嶋さん。その言葉からは、受け継いだものを大切にしながら、この場所をさらに魅力ある場所へと育てていきたいという思いが伝わってきます。
「やっぱりこういう自然の中にいるといいですよ」と、小嶋さん自身も癒されるというこの場所に流れる「時間」は、季節ごとに表情を変えて訪れる人々を楽しませてくれます。特に秋の紅葉シーズンは、鮮やかに彩られた自然の美しさを堪能することができるそう。家族や友人、大切な人といろりを囲みながら、この場所でしか味わえない非日常的なひと時を楽しみに訪れてみてはいかがでしょうか。

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グルメライター 中村あきこ
グルメライター/日本とフランスの料理学校でフランス料理を学び、帰国後、都内フレンチレストランでサーヴィスに従事。マネージャーやウエディングプランナーを経験。また、料理とワインのマリアージュの素晴らしさに心が奪われた事をきっかけに、JSA認定ソムリエ、シニアソムリエを取得。お店に立つ側と食べる側、両方の視点から感じたものを、素直な言葉で綴り、そのホスピタリティを伝えている。現在は知人の店でヘルプシェフとしてキッチンに立つことも。二児の母。長男の育児中の食の悩みから、幼児食インストラクターを取得。親子で楽しく囲める食卓も日々研究中。
| 施設名 | 貯水池 鳥山 |
|---|---|
| 住所 | 東京都東大和市蔵敷1−391 |
| TEL | 042-561-3078 |
| 定休日 | 水曜日・木曜日 ※祝日の場合は営業 |
| 公式サイト | https://chosuichitoriyama.com/ |
※最新の情報は公式サイトをご確認ください。