こんにちは、イマタマグルメライターの中村あきこです。気温が高くなり、仕事の後は冷たい生ビールで喉を潤し、1日の疲れを癒したくなる季節になりました。
多摩地域で初めて「生ビール」提供した飲食店は立川市にあったということをご存知でしょうか。その始まりは、戦後間もない1947年。立川駅北口に創業した、「今川焼き玉川」という店でした。
今川焼きを売る傍ら食堂を併設。その後、居酒屋「酒亭玉河」と店名を変え、多摩地域で初めて生ビールの販売を始めます。戦後復興の真っ只中にあった立川の街で、人々が通い、集い、酒を酌み交わしながら語らえる「居場所」として親しまれてきました。
現在も、創業者が思い描いた飲食店のあり方を受け継ぎ、立川市を中心に多数の店舗を展開する「玉河」グループとして発展しています。
今回は、その思いを受け継ぎ、かつて存在した店舗を、令和の時代に甦らせた「ろばた焼 玉河」さんをご紹介いたします。東京・多摩地域の地酒や食材を、目の前で繰り広げられる『炉端焼き』のライブ感とともに味わえる同店。
地域の魅力を発信しながら、人と人、地域と人が自然につながる『居場所』を目指す、その新たな挑戦についてお話を伺ってきました

東京の地酒を巡る飲み比べ
多摩エリアの魅力を炉端焼きとともに味わうひととき
J R中央線立川駅北口から徒歩約5分。伊勢丹立川店の東側に面したピタゴラス通りにある「ピタゴラスビル」の地下1階に「ろばた焼 玉河」はあります。まずはお店へと通じる階段の壁に注目してみてください。一面モノクロ写真でデザインされたその壁には、創業から受け継がれてきた「玉河」の歩みや、日々店を支えるスタッフたちの笑顔が並んでいます。
さらに階段を降りると、かつての立川駅北口の風景や商店街、米軍基地の時代を物語る航空機、活気あふれる市場の様子など、戦後復興から発展を遂げてきた立川の歴史を、垣間見ることができる写真に出迎えられます。
地下一階の入り口で靴を脱いで、板張りの座敷へ上がると、柔らかな照明に包まれた空間が広がります。囲炉裏に面したカウンター席と、掘りごたつ式のテーブル席を囲むのは、職人の手作業で塗られた柔らかな質感の土壁や、鈍く輝く石材風の壁。和紙をあしらった間接照明が空間に更なる優しい温かさを与えています。

お店は16時からオープン。私が訪れた18時頃には、すでに多くのお客様で賑わい、店内は活気に満ち溢れていました。またスタッフ同士やお客様へ「アイヨー」という和やかで威勢の良い掛け声が交わされていたことも印象的でした。
実はこの「アイヨー」は、訳すと「愛よー」なのだそうで、ここには『全力の愛よ!』という意味が込められています。お客様や同僚への思いやりや敬意を、受け取る前にまず自分から届ける。そんな姿勢を言葉にして伝えているのだとか。それが親しみやすく温かな接客につながり、このお店の活気とともにある、和やかな雰囲気を生み出しているのです。
そんな店内で、何より目を引くのは囲炉裏を囲む『炉端焼き』ならではのライブ感です。炭火の香ばしい香りが立ち込める中、串に刺さった魚や肉が囲炉裏の周りに焚べられ、出来立ての料理が大きな長いしゃもじで提供される光景。このように大きなしゃもじで提供される「ろばた焼き」は昭和の時代に、全国で親しまれたスタイルで、かつての「ろばた焼 玉河」も、まさにそんな時代の1975年から立川で親しまれていた店の一つでした。
しかしながら時代の流れとともに、提供に時間がかかる炉端焼きよりも、スピーディーな提供を優先とする居酒屋スタイルが好まれ、1995年に「旬菜炭焼玉河」へと店名を変更。初代「ろばた焼玉河」は惜しまれながらもその幕を閉じることとなります。

しかし時代は巡り、「ここでしか味わえない贅沢な時間」や「人と時間を共有する良さ」が、今改めて見直されるようになりました。目の前でゆっくりと焼き上がる時間の経過も、美味しさの一つとなるような、『炉端焼き』ならではの魅力。それに加え、東京・多摩地域の食材や地酒を通じて、地域の再発見を提供する場所として、「ろばた焼玉河」は2026年3月、現代の感覚に心地よく再構築されて、場所を変えて、再び立川の街に甦ってきました。
当時を知る人には懐かしく、また初めて訪れる人には新鮮に映る「ろばた焼玉河」で、さっそくお料理をいただいてみることにしました。
こちらのお店の名物といえば「ゴツゴツつくね 赤鬼の金棒」590円や「鬼大トロサバ一本焼」(1690円)といった炉端メニュー。次々とテーブルに運ばれていく様子を眺めていると、カウンター越しに沢山盛られていたはずの素材がみるみるうちに減っていきます。気になる食材は早めに注文しておくのがおすすめです。
また、藁焼きにした鰹やブランド豚「TOKO X」の「鬼火焼き」も人気の一品。燃えあがる炎の迫力あるパフォーマンスに思わず目を奪われます。

一方、「すぐ出るメニュー」も充実しています。酒飲みの心を鷲掴みし、甘辛さと食感が癖になる「生姜の佃煮」(490円)や、八王子の特産の胡桃を使った「自家製くるみ味噌」(590円)。また、日野市で50年以上続く手作りどうふの店「三河屋」の寄せ豆腐や三角油揚げなど、地域密着の一品も並び、「これは多摩の地酒と合わせて楽しみたい!」と思わずワクワクしてしまいます。

ドリンクも充実していて、特に地酒のラインナップに驚きました。中でも日本酒は、東京多摩を中心とした10の酒蔵から選りすぐった銘柄が並び、ぐいのみが 590円、徳利大が 1500円、徳利小が 990円と、それぞれ一律価格で楽しめるのが嬉しいところ。
奥多摩・小澤酒造の「澤乃井」や福生・田村酒造の「嘉泉」をはじめ、これまでにイマタマグルメでも紹介してきた、東村山・豊島屋酒造の「屋守(おくのかみ)」、福生・石川酒造の「多満自慢」、東京八王子酒造「高尾の天狗」なども並びます。
私の知る限り東京の酒蔵をここまで揃えたお店は意外と少なく、さらにこれら10種類の中から3種を選んで飲み比べができるセット(1200円)もあり、日本酒好きとしてはかなりテンションが上がります。
日本酒のみならず、日野市に醸造所を構える「都下ワイン」や、立飛のクラフトビールなど地元のお酒も充実しています。今後は、東京の島しょ地域で造られる焼酎にも力を入れていきたいそうで、「東京のお酒」の奥深さを一度に楽しめる場所として、その魅力はさらに広がっていきそうです。

また季節のおすすめ料理も必見です。この季節は生食できる山女魚として注目されている奥多摩『奥江戸水産のやまめ』の一本焼きや、地元の新鮮な野菜焼きなど、今しか出会えない食材も用意されています。
オーダーは直接スタッフへ伝えることも可能ですが、席にあるQRコードを読み取り、スマホからのセルフオーダーも可能です。食べたい、飲みたいと思ったタイミングを逃さず注文することができるのは、現代ならではの良さですね。

肩の力を抜いて「不真面目の補給」ができる
飲んべえたちの居場所作り
「僕自身、居酒屋が大好きなんです。特にろばた焼きのライブ感にずっと憧れがあって。だから『ろばた焼 玉河』は僕にとってすごく思い入れの強い店舗だったんです。それに居酒屋って「ちょっと不真面目でもいい場所」じゃないですか」。と話すのは、有限会社野村興業 代表取締役社長の西川 洋右(にしかわ ようすけ)さん。
戦後の立川駅前の今川焼き店から始まり、「玉河」を築いた創業者 野村 忠男さんの思いを受け継ぐ三代目として、現在は立川曙町に「旬菜炭焼玉河」「串焼き たまがわ」「たれだく やきとん玉河」さらに「玉河 三鷹店」を展開し、2026年3月に、かつて愛された「ろばた焼 玉河」を店舗デザインから全面的に刷新し、新たな場所で、現代版として復活させました。

冒頭で少し触れましたが、囲炉裏でじっくりと火入れする『炉端焼き』は提供に時間を要し、魚や肉を焼くのに30分ほどかかってしまうこともあります。
次々と料理を提供し、効率を重視するメニューが求められる時代の中では「ろばた焼き」は「効率が悪い」と考えられ、かつての「ろばた焼 玉河」はその形を変えることになったといいます。
しかしその一方で、当時の常連客からは「あのお店よかったよね」。「またやってほしい」。という声が絶えなかったのも事実でした。
「50年前から通ってくれている常連さんが今でもいらっしゃるんですけど、『もう一回、ろばた焼きやってよ』ってずっと言ってくださっていたんです」。そうした当時を知る常連客の声に触れるうちに、西川さんの中で「もう一度やりたい」という想いが強くなっていったのだそうです。
また、戦後から立川の発展をともに歩んできた地域の企業や、人々とのつながりも「ろばた焼 玉河」の復活を後押しする力になってくれたのだと話します。
そして復活において西川さんが目指したのは、先代から受け継がれてきた「居酒屋は呑んで、笑って、腹を割って過ごせる場所」という居場所づくりです・
「コンプライアンスや効率性が重視される時代だからこそ、たまには肩の力を抜き、自分らしく過ごせる『居場所』があってもいいと思うんです。飲み屋に来た時くらい、人間らしくいていいじゃないですか。真面目すぎる社会の中で、少しくらい不真面目が許される。そんな場所でありたいんです」と語る西川さん。

お客様にとっての居場所作りだけでなく、働くスタッフにとっての居場所作りも大切にしています。近年、飲食業界では人手不足が大きな課題となっています。
そうした中で長時間労働や、特定の人に仕事が集中してしまう働き方を見直し、例えば「お先に失礼します」と言ったときに仲間が自然に「任せとけ!」と返せる関係性作りや、スタッフ一人一人ができることを増やし、成長しながらそれぞれの役割を担える環境作りに力を入れているそうです。
そこで取り組んでいることが「アイヨー(愛よー)」の精神なのです。
相手から受け取る前に、自分から先に思いやりや優しさを届ける。そんな全力の愛を持ってお客様や仲間に接することが、「ただいま」と言いたくなうような「居場所作り」の土台そのものなのかもしれません。
戦後の立川で生まれ、人々の居場所として親しまれてきた「玉河」の歴史を受け継ぎながら、東京・多摩地域の食材や地酒と人と人をつなぐ場所。仕事帰りにちょっと愚痴をこぼしたい日も、仲間とゆっくり語りたい日も、囲炉裏を囲んで「呑んで、笑って、腹割って話す時間」を、ここ「ろばた焼 玉河」で過ごしてみませんか。
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取材後記
「ろばた焼玉河」では、多摩地域の酒蔵とコラボした特別な企画も開催されています。今回は6月17日(水)に行われた『澤乃井な夜@ろばた焼玉河」というイベントに潜入。その様子をちょっとだけご紹介します。
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『東京の酒を、東京で味わう』をコンセプトに、多摩の自然と文化が育んだ酒と食を通じて、東京の魅力を再発見できる一夜。この日は多摩を代表する酒蔵である小澤酒造株式会社 代表取締役社長の小澤幹夫さんによる、季節のおすすめを中心とした、7銘柄が用意されました。
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爽やかな飲み口の「さわ音」や、キンキンに冷えた竹酒には「澤乃井 湧水仕込み」。「東京蔵人」のぬる燗など、参加者の席を回りながら、それぞれの魅力や、美味しさへの工夫、酒造りへの取り組みを直接紹介してくださいました。
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また立川産の枝豆をはじめとする夏野菜や、TOKYO X、奥多摩のヤマメを使った、お店ではまだリリースされていないメニューが楽しめました。さらには「玉河」の原点ともなる「今川焼き」を、同市にある「Adamsオーサムパイ」が令和バージョンにアレンジ。食後のデザートとして登場するなど、心尽くしのおもてなしメニューと美味しいお酒のマリアージュを味わうことができました。
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次回は10月27日に「石川酒造」とのコラボが開催されるそうです! 詳しくは今後の店舗ホームページやSNSなどをご覧ください。
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グルメライター 中村あきこ
グルメライター/日本とフランスの料理学校でフランス料理を学び、帰国後、都内フレンチレストランでサーヴィスに従事。マネージャーやウエディングプランナーを経験。また、料理とワインのマリアージュの素晴らしさに心が奪われた事をきっかけに、JSA認定ソムリエ、シニアソムリエを取得。お店に立つ側と食べる側、両方の視点から感じたものを、素直な言葉で綴り、そのホスピタリティを伝えている。現在は知人の店でヘルプシェフとしてキッチンに立つことも。二児の母。長男の育児中の食の悩みから、幼児食インストラクターを取得。親子で楽しく囲める食卓も日々研究中。
| 施設名 | ろばた焼 玉河 |
|---|---|
| 住所 | 東京都立川市曙町2-7-5 ピタゴラスビル 地下1階 |
| TEL | 050-5448-9949 |
| 営業時間 | 16:00~23:00(L.O.22:30) |
| 定休日 | なし |
| 公式サイト | https://robata-tamagawa.com/ |
※最新の情報は公式サイトをご確認ください。