高尾山麓から神奈川県堺へと東西約20㎞にわたり広がる多摩丘陵。川の源流があり、雑木林や農地が広がるこのエリアには大きな公園や緑地があります。そのひとつ、平山城址公園の南側に東京薬科大学とその薬用植物園はあります。1931年の開園から移転を経て、1976年に現在の地に開園しました。
大学移転にあたっては入念な植物調査が行われ、500種の野生種を有する東向きに開けた谷を含む4.1haの敷地が薬用植物園の候補地に選ばれました。現在では、北向き・南向きの両斜面が生み出す多様な環境に、2,700種もの薬用植物や関連植物が栽培され、都内最大級の薬用植物園となりました。
今回、その薬用植物園を管理・運営する研究者の三宅克典さんにお話をうかがいました。
最近では、新型コロナの影響で葛根湯が品薄というニュースが話題になりましたが、漢方薬の原料生薬の国内自給率はもともと1割程度にとどまっているため、その点でも世界情勢の影響を受けやすい状況にあります。
そのため、薬用植物園としても、薬用植物の資源調査や栽培研究を行い、生産拡大時の種苗基地として機能できるように準備をしているそうです。また、学内外の研究者に植物を提供し、エネルギーの供給や食の分野で私たちの生活にも役立つ植物の光合成や酵母の研究にも薬用植物園が利用されているそうで、益々その重要性が高まっています。
そして、これらの研究は、実は、私たちの普段の生活にも美味しい恩恵がもたらされることがあります。たとえば、「高尾ビール」。フルーツやホップ、スパイス、麦、酵母など、地域の顔が見える素材を使ったクラフトビールをオリジナル開発している会社ですが、過去には、薬用植物園とのコラボも話題になりました。今後も、美味しくて楽しいコラボが登場するかもしれませんので、チェックしておきたいですね。
さて、他にも、私たちに身近な存在としての薬用植物園の活用方法はあるのでしょうか?やはり、大学の研究施設という枠にとらわれず、薬用植物園ならではの地域貢献のあり方も常に考えているそうです。一般の方の薬用植物への関心に応えるだけではなく、薬剤師や研究者を目指す中高生が、自然や科学に触れる場所を提供するためにも、一般に向けて様々な取り組みを行っています。
そのひとつは、薬用植物園が見学できること。重要な植物が理路整然と植えられた見本園や亜熱帯・熱帯の有用植物が展示されている温室では、温帯から熱帯にかけて生育する代表的な薬用植物、有用植物を自由に観察することができます。森林の中には、多摩丘陵のもともとの地形を辿る自然観察路があり、春にはカタクリ、季節ごとにモクレンやツツジなども見られ、散策が楽しめるコースにもなっています。園の入口手前には、樹木園もあり、徐々に整備されつつあります。
とはいっても、ここは薬科大学の薬用植物園。薬用植物の知識を伝えるために、植物の説明板を工夫しています。薬用植物の名前や写真、効能効果、用途などはもちろん、原産地や具体的な作用の説明とともに、化学式が記載されています。化学式が分からなくても、私たちが日ごろ口にする食べ物、薬、化粧品などに含まれる栄養成分や効能効果の多くが、植物から採られていることを想像することにも役立っているようです。
さらに、春と秋の年2回、公開講座を開催しています。1994年から続くこの公開講座は、テーマを絞った講義内容と薬用植物園の見学会もついていて、毎回200名ほどが参加する人気イベントでもあります。
その他にも、八王子学園都市大学が主催する「いちょう塾」など、地域と連携した講座などもあり、今後、多摩地域でも開催できたらという意向もあるようですので、お住まいの市からの広報などの情報をチェックしてみてください。
大学正門から薬用植物園に至る道にもたくさんの樹木が植えられていて、樹木の根元には、樹木名の札がきちんと添えられています。大学全体を樹木園にするという構想もあるそうで、まるでキャンバス全体が大きな植物園のような豊かな自然を感じます。
静かに自分のペースで植物を楽しめるのではないでしょうか。
お出かけの際には、見学できる曜日が限られていることと、あくまでも大学の研究施設であることを踏まえて、見学にあたっての諸注意をご確認ください。
施設名 | 東京薬科大学 薬用植物園 |
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住所 | 〒192-0355 東京都八王子市堀之内1432-1 |
TEL | 042-676-5111(月~金 8:45-17:00 祝祭日・大学の休暇日を除く) |
営業時間 | 月曜日から土曜日 午前9時30分~午後4時まで (ただし、温室は11月~3月の間、午後3時まで) |
公式サイト | https://www.toyaku.ac.jp/campus/hachioji/plant/ |
※最新の情報は公式サイトをご確認ください。